Laura Matthews
[ニューヨーク 15日 ロイター] - 米宇宙開発企業スペースXの株価が15日の取引で新規株式公開(IPO)価格を一時的に割り込んだ。注目のデビューを飾った同社株が信頼性の面で試練の時を迎えつつあり、個人投資家を動揺させ、大型上場を検討している他の企業の決断を難しくする恐れがある。
実業家イーロン・マスク氏の率いるスペースXは、ロケットから人工知能(AI)まで多岐にわたる事業を展開し、6月12日に上場。その後数日間で株価は急騰し、一時は時価総額が2兆ドルを大きく上回った。
だが取引は不安定な状態が続いている。ハイテク株の割高なバリュエーションへの懸念から、株価は6月後半に150ドルの初値を下回った後、15日に公開価格の135ドルを初めて割り込み一時は132.15ドルに沈んだ。終値は0.6%安の135.27ドルだった。
これは記録的なIPOを通じてマスク氏が世界初のトリリオネア(資産1兆ドル超え)となってから、わずか1カ月余りの出来事だ。
スペースX株は約1週間前からナスダック100指数の構成銘柄としての取引も始まっている。
ミラー・タバクのチーフ市場ストラテジスト、マシュー・メイリー氏は、公開価格割れはスペースX株にとって心理的な打撃だと指摘。「株価が実体に基づいたものではなく、中身のない期待や投機、バブルによって上昇しているという見方を強めてしまう」と話す。
カーネギー・インベストメント・カウンセルの調査ディレクター、グレッグ・ハルター氏は、スペースX上場を巡る熱狂に乗じて「一儲けしようとした」投資家は「失望することになるだろう」と警告した。
ハルター氏は、スペースX株の軟調について、上場後1カ月間の平均および中央値のリターンがマイナスになることが多いという過去30年間の過度にはやし立てられたIPO銘柄の傾向に沿ったものだと説明した。
スペースXはコメント要請に応じなかった。
<価格形成途上>
公開価格を割り込むことは、新規上場企業にとって珍しいことではない。5月に上場した半導体のセレブラス・システムズの株価も公開価格を下回っており、メタもデビュー後に同様の下落を経験している。
ディレクシオンのプロダクト・戦略担当シニアバイスプレジデント、ライアン・リー氏は、投資家は公開価格や初期の取引を注視しがちだとしつつも「現実には、(スペースXは)まだ価格形成(プライス・ディスカバリー)の途上にある」とくぎを刺した。
ファルコン・ウェルス・プランニングのガブリエル・シャーヒン最高経営責任者(CEO)は、スペースXが135ドルを下回ったことは、ロックアップ(売却制限期間)の終了に伴う投資家やベンチャーキャピタル、従業員による売却という「痛みは伴うものの、正常な」市場メカニズムを反映していると強調する。
その上で「135ドルの閾値(いきち)を一時的に下回ったからといって、われわれの現在のポジションを根本的に変更したり、パニック売りを引き起こしたりすることはない」と言い切った。
<次の案件への警告か青信号か>
一部の投資家は、スペースXの株価動向が今後の新規上場市場に影響を与える可能性があると考えている。
AI企業のオープンAIやアンソロピックも株式公開を視野に入れているが、両社ともコメント要請に回答しなかった。
カーネギーのハルター氏によると、今年大型IPOを検討している企業や投資銀行はスペースXを注視している。
ハルター氏は「IPOを失敗させたり、初期価格を引き下げられたりしたい企業はない」と語り、一部の案件は低い評価額で価格決定されるよりも、上場自体が撤回される可能性があると推測する。
一方で、ディレクシオンのリー氏は、スペースXが行った資金調達が、多額の資金ニーズを抱える一部の企業の動きを加速させてもおかしくないとの意見だ。
「もし私がオープンAIやアンソロピックの立場で、フロンティアAIモデルを構築するための真の『軍拡競争』の渦中にあり、資本を必要としているなら、相手よりも先に上場しようとするだろう」という。
<真価問われる最初の決算>
公開価格を割り込むことは、割り当て分の約20%を受け取った個人投資家に大きな打撃を与えかねない面もある。
シャーヒン氏は「多くの初心者投資家は、スペースXに対して『ミーム株』的な考え方でアプローチしており、失うわけにはいかない資金を投じている」と解説。損失が「市場はインサイダーを優遇している」という認識を助長する可能性があると警告するとともに「市場は、IPO後のボラティリティー(発生)は正常であることを理解する必要がある」と付け加えた。
ドミニ・インパクト・インベストメンツの調査ディレクター、マリア・ジェレナ氏は、主幹事証券会社は上場後30日間、株価を支えるのが普通で、今回の案件の規模や世間の注目度、そして他の注目度の高い上場が控えていることを考えると、スペースXに対してはより手厚いサポートが行われる可能性があると述べた。
しかしその後は企業の実力が物を言う以上、スペースXにとって上場後最初の決算報告で、真価を問われるだろう。
ジェレナ氏は「収益化への明確な道筋がない赤字企業は、通常ボラティリティーが高く、公開価格を下回る可能性がある」と語った。