Zhang Yan Ju-min Park
[上海 8日 ロイター] - 中国自動車市場で米ゼネラル・モーターズ(GM)は5月、外国自動車メーカーとしては異例の実績を上げた。新型プラグインハイブリッド(PHEV)SUV(スポーツタイプ多目的車)「ビュイック・エレクトラE7」の販売台数が発売初月に1万台を超えたのだ。ブランド名こそ米国色が強いが、それ以外は開発・技術基盤を含めて中国発だ。GMが現地提携先の上海汽車集団(SAIC)と共同運営する技術センターで、全面的に開発が行われた。
計画を直接知る関係者によると、GMは同車を韓国に輸出し、中国で開発されたプラットフォームを次期「キャデラック・オプティック」に採用する方針だという。この計画が報じられるのは今回が初めてとなる。
世界の自動車メーカーにとって中国は長年、本社で開発した車を低コストで量産する製造拠点だった。だが現在、GMや独フォルクスワーゲン(VW)、仏ルノーは、開発の主導権を中国のエンジニアに渡しつつある。電動パワートレインや高度なソフトウエアなど、重要技術分野で中国が強めている優位性を取り込む狙いがある。
中国開発チームの裁量権も拡大している。中国の元GMエンジニアで、現在は独立系自動車アナリストの朱玉龍氏は、本社がすべてを決める時代ではなくなったと指摘する。エレクトラについては「製品コンセプトと技術的なロードマップが、初めて本格的に中国チームの手に委ねられた」と朱氏は語った。
GM中国の広報担当者は、輸出の可能性や今後の市場計画についてはコメントを控えた一方、同社は中国内外の顧客のニーズに応える車両・技術の開発に注力していると説明した。
業界幹部やアナリストによれば、中国で開発された技術は、かつては主に国内市場向けだったが、今では世界展開を視野に入れて採用されるケースが増えている。
GMとSAICの合弁会社である上海GMによると、新型ビュイックは、同社「汎亜汽車技術センター(PATAC)」のエンジニアが開発した「逍遥(シャオヤオ)」プラットフォームを採用している。同センターには約3000人の従業員が在籍している。
「逍遥」とは道教で「束縛からの自由」を意味する言葉に由来する。900ボルトの超急速充電システムとPHEVのパワートレインを備え、上海GMは市場トップクラスの燃費性能を実現したとしている。
これらの機能は、米デトロイトで開発されたGM車には搭載されていない。
匿名を条件に語った関係者によると、次期オプティックに「逍遥」を採用すれば、従来モデルで使われていたデトロイト開発の「アルティウム」プラットフォームを置き換える形になる。
「逍遥」ベースのエレクトラが中国で好調な一方、アルティウム採用モデルの販売は伸び悩んでいる。
研究開発(R&D)を中国へ移すことは、既存自動車メーカーにとって技術力の強化につながる。
調査会社ガートナーのリサーチ担当バイスプレジデント、ペドロ・パチェコ氏は「従来の自動車メーカーは製造会社として、テクノロジーの世界に適応しようとしている」と語る。「そして中国へと向かった。そこなら技術人材が見つかると分かっているからだ」。
<中国発、欧州向け開発>
ルノーの上海技術センターは、欧州で生産・販売される小型電気自転車(EV)「トゥインゴE-Tech」を開発した。韓国の現代自動車は中国販売で苦戦しているものの、同国への投資は継続している。中国を研究開発と輸出の拠点にする構想だ。
VW傘下のアウディは、中国向け新ブランド「AUDI」の開発において完全な裁量権を持つ研究開発センターを設ける計画を発表している。
アウディと上海汽車の合弁、上海アウディのステファン・ペッツル氏は、この方針転換は「AUDI E5スポーツバック」の滑り出しの好調さを受けたものだと説明。ドイツ発の技術を中国市場向けに調整する従来路線からの転換を意味するとした。
同車には、センサーで上下方向の動きを予測し、より滑らかな乗り心地を実現する「インテリジェント・エアサスペンション」が搭載されている。この機能は中国のドライバーには好評だが、競合する独メルセデス・ベンツの「CLA」には搭載されていない。CLAはドイツで開発されたグローバル・プラットフォームを中国向けに適合させたモデルだ。
自動車コンサルティング会社「ThinkerCar(シンカーカー)」によると、E5は2025年後半の発売以降、中国でCLAを販売実績で上回っている。月間平均販売台数はE5が910台、CLAが296台だった。アウディはE5を中国から輸出する計画はないとしている。ただ、昨年末には欧州の自動車ファンがSNS(交流サイト)上で、同モデルが欧州市場で販売されていないことに疑問を投げかけた。
メルセデスは「CLA EV」について「販売の柱」ではなくニッチモデルとの位置づけだと説明した上で、「100%中国に適合した製品」への取り組みを強化しているとした。
EV専門ブログ「スーパーチャージド」創設者の常岩氏は、一般的に海外本社は「中国市場の課題に十分なスピードで対応できないことが多く」、世界の自動車メーカーには中国での研究開発が必要だと指摘した。
在中国ドイツ商工会議所によると、ドイツの自動車業界では、中国国内および世界市場向けに中国で行われる研究開発の比率が、2年間で12%から33%へと急伸した。
「知識の流れはもはや一方通行ではない」と、同会議所の華北地区担当エグゼクティブディレクター、オリバー・オームス氏は述べた。
<2つの「アウディ」戦略>
研究開発を中国に委ねる動きは、自動車メーカー内でブランドの一貫性を巡る懸念も招いている。特に「ドイツの技術力」などを売りにしてきたブランドにとっては重要な問題だ。
アウディは、中国でのデュアルブランド戦略によってこの課題に対応している。新たな研究開発センターの技術はアルファベット表記の「AUDI」ブランドに投入し、「フォーリングス」エンブレムを掲げる従来ブランドはドイツで開発された技術を維持する方針だ。
この戦略についてアウディはロイターへの声明で、「各ブランドの位置付けと顧客ターゲット、それらに対応する技術的ソリューションを切り分けるものだ」と述べた。
研究開発の移管には社内文化の衝突や政治的反発といったリスクが伴うと、アナリストや業界幹部は言う。
ガートナーのパチェコ氏は、過度に多くの開発人材を中国に移せば、サプライヤーを含む本国の産業エコシステムに打撃を与えかねず、政治的にも戦略的な損失と受け止められる可能性があると指摘した。
ルノーの「トゥインゴ」開発は、こうした摩擦の可能性を示す一例だ。
ルノーは中国の技術センターを活用し、「トゥインゴE-Tech」をわずか1年9カ月で開発。フィリップ・ブリュネ最高技術責任者(CTO)は「驚くべき」短期間だと評価した。
一方でこのプロジェクトには、品質基準や現地エンジニアの長時間労働を疑問視する本社側の声もあった。そこでルノーは、フランス人エンジニアをローテーションで中国に派遣する取り組みを導入したという。
ブリュネ氏は「派遣エンジニアは多ければ多いほど望ましい。フランスに戻って、中国現地の事情を説明してくれる」と語った。