Nilo Tabrizy
[17日 ロイター] - イランのアラグチ外相は米国との戦争終結に向けた暫定合意を発表した際、自国の勝利を宣言した。しかし、多くのイラン国民にとって、そのような実感はない。
3カ月以上にわたる米国とイスラエルによる空爆、米海軍によるイランの港湾封鎖は、長年の制裁下で既に青息吐息だった人々に新たな悲劇をもたらした。
確かに今のところ、戦争は終わった。だが、イラン国民は出費を慎重に抑えている。ロイターは今週、イランの体制支持者と反対派の双方に取材したところ、状況がすぐに好転すると信じている人はほとんどいなかった。
経済的な怒りが政府に対する新たな抗議活動の波を引き起こす可能性があるという意見や、今年1月に起きた前回の抗議デモに対して行われたのと同じような凄惨な弾圧が新たに加わるとの観測もあった。
さらに恒久的な合意は今後の交渉に先送りされたため、戦争を終わらせるための今回の暫定合意の効力が夏を越せるという確信を持っている人はほとんどいない。
<経済的困窮>
イラン中部イスファハンでメディア制作企業を経営するアミールさん(34)は「99%の人々が生き延びることだけを考え、ただその日暮らしをしているだけだと思う。もはや誰も希望を持っていないし、将来がどのようになるかというビジョンも持てていないと感じている」と打ち明けた。
ロイターは、彼らが自由に話せるようメッセージアプリを通じて接触したが、アミールさんを含む数人は当局の怒りを買うことを恐れてフルネームの公表を拒んだ。ただ首都テヘランでカメラ取材に応じた他の数人は、フルネームを明かした。
「人々の状況、生活環境は良くなるどころか日に日に悪化している。今、誰に尋ねても『満足している』と答える人などいるだろうか」と、戦争初日に殺害されたイランの故ハメネイ最高指導者の巨大な遺影の近くでメフディ・サバヒさんはカメラに向かって語りかけた。
こうした暗い見通しは、イランの統治体制を支持する強硬派には共有されていない。彼らはこの戦争を勝利として描き、イラン国民は不屈で団結していると表現する。とはいえ、彼らの中にもイランはもっと良い条件を要求すべきだったと言う声はある。
日刊紙「ソブ・エ・ノ」編集長のサイード・アジョルロワ氏は「われわれがこの合意文書(覚書)に非常に満足しているわけではない。国民はこれ以上のものを求めており、われわれはそのような世論に直面しているのだと伝えなければならない」と言い切った。
その上で「わが国民が疲れ果てているとか、疲弊し降伏する構えだと思わないでほしい。それどころかわれわれの姿勢は勝利の姿勢なのだ」と強調した。
自分はイランのイスラム神聖政治体制の支持者でも反対者でもないとするテヘランのカフェ店主は、イスラエルとトランプ米大統領の両者が、再びイランを爆撃したがるだろうと考えている。
メッセージアプリで「最終決定されつつあるこの合意には、あまり魅力を感じない。長く続くようには思えない」と答えた。
ロイターが取材したほとんどの人々と同様に、このカフェ店主も生活水準の低下を痛感しており、人々が支出を減らしている様子を、最近よく使われるペルシャ語の表現を用いて「食卓を小さくすることに慣れた」と表現した。
テヘランの25歳の学生は「全てが悪化し、指数関数的に物価が上がった」と嘆き、自分も友人も、もはやカフェで会う余裕すらなくなったと付け加えた。
<新たな弾圧懸念>
イラン政府による新たな弾圧への不安は、少数民族が暮らす場所でとりわけ強い。過去の抗議運動の弾圧において、こうした地域はしばしば最も多くの犠牲者を出してきた。
イラン西部のクルド人居住地域に住む3人の男性は、戦争によって貧しくなっただけでなく、さらなる抑圧や不安定な状況がもたらされたと語った。
そのうちの1人は「現体制をそのまま残すことは、抑圧的な機構の力を強めるだけだ」と指摘。1月の流血事態によってしばらくは新たな抗議活動は控えられるだろうが、経済的な苦痛によってすぐに新しいデモが発生するとみている。
別の25歳の学生によると、戦争初期に米国がイラン体制に対してクルド人による武装蜂起を扇動しようとしているという噂が流れたことで、この地域の状況はさらに悪化した。「戦争はクルド人にさらなる問題を引き起こしただけだった」という。
少数民族地域以外の人々も、戦争によって政治的自由が拡大する見通しが損なわれる恐れがあると心配している。
戦争が始まって以来、イランの指導層は街頭での人々の行動を支配しようとしており、都市の中心部には集会を開いたり、殺害された指導者の追悼行事を実施したりする体制支持者があふれている。
イスファハンのアミールさんは、そうした支持者らの存在は、国家が日常生活に入り込んでいることを常に思い起こさせるものだと述べた。
「イスラム共和国がすぐにどこかへ消え去ることはない。以前から強固に定着していたが、今ではその10倍も深く根を張っている。改革や何かが変わるという希望は、基本的には完全に消え去った」と同氏は語った。