ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は目下、多くの難題を抱えている。なかでもウクライナ戦争は短期間で政権を転覆させる見込みが外れ、旧ソ連時代のナチスドイツとの戦い以上の長期戦になっている。
しかも水面下では、プーチンにとって最悪のタイミングで、深刻な混乱につながりかねない別の問題も進行している。北カフカスのチェチェン共和国の後継者危機である。
チェチェンはロシア南部の小さな共和国でありながら、その規模に不釣り合いな混乱を繰り返してきた。現在の問題は絶大な権力を握るラムザン・カディロフ首長(49)が命に関わる重病を患っており、いつ表舞台から姿を消してもおかしくないことだ。
カディロフが後継者として期待する息子のアダムはまだ18歳で、権力を引き継ぐには若すぎる。プーチンは、信頼できる側近またはモスクワから送り込む後見人の下でアダムに名目上の統治権を与え、カディロフ家による支配体制の維持を図る可能性がある。
だが、事はそう簡単に運びそうにない。ラムザンは20年以上強権的な統治を続け、「カフカスの金正日」と呼ばれる人物。氏族を重視し、血の報復の伝統が根強いチェチェン社会には、彼への積年の恨みが渦巻いている。国外に追いやられた多くの政敵も雪辱の機会をうかがっている。
さらに過去4年間で、事態を一段と複雑にする新たな要因が加わった。ウクライナ戦争で、チェチェン人がロシア軍とウクライナ軍の双方に分かれて戦っているのだ。
ウクライナは2022年にチェチェンの独立を正式に承認して以降、親ロシアのカディロフ政権に抵抗する勢力を後押ししてきた。チェチェンで新たな戦争が始まれば、ロシアは兵力や資金をそちらに振り向けざるを得なくなり、ウクライナ戦線に投入される資源がそがれるためだ。