新型コロナウイルスのパンデミックに世界中が右往左往していた2020年当時、マスクの是非からロックダウンの効果、ウイルスの起源まで、大小さまざまな噂や陰謀論が絶えず飛び交っていた。

その1つが「高濃度のアルコールを口から摂取すれば、体内が消毒されてウイルスを殺せる」というデマだった。この「治療法」が世界中に拡散されると、それを信じて有毒なメタノールを飲む人が続出。イランを中心に約800人が死亡、60人が視力を失った。

真偽不明の情報に振り回されて健康を損なったり、社会が混乱したりする例は古今東西、枚挙にいとまがない。デトックスという名目で極端な断食に走ったり、根拠の薄い民間療法に固執して癌の標準治療を拒んだり、ダイエット効果をうたう報道をきっかけに特定の食品がスーパーの棚から消えたり……。

科学者が実験や臨床研究を通じて根拠がないことを示しても、人目を引く情報は科学的検証をはるかに上回るスピードで拡散され、時には命を脅かすことさえある。WHO(世界保健機関)は、こうした現象を「インフォデミック(インフォメーションと、感染症の流行を意味するエピデミックを組み合わせた造語)」と命名。

テドロス・アダノム事務局長はコロナ禍勃発直後の20年2月に開催されたミュンヘン安全保障会議で「われわれはエピデミックだけでなくインフォデミックとも戦っている。フェイクニュースはこのウイルス以上のスピードで拡散し、ウイルスと同じくらい危険だ」と警告した。

誤情報の氾濫は今に始まったことではないが、その規模と拡散の威力は近年、過去に例を見ないレベルに達している。

かつて医療や健康に関する情報の大半は、一方通行で与えられるものだった。病気の治療法や薬の副作用といった専門知識は、医師をはじめとする医療関係者や研究者に偏在しており、それ以外の大多数の人々はメディアを介して、あるいは診察室で情報を受け取るしかなかった。

情報の海の中から正確かつ必要な内容を選び取る力
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