安宅和人教授 土居丈朗教授本対談は2025年7月30日に都内で行われた。

安宅 一番大きなインパクトは、10兆円規模の大学ファンドの創設です。社会保障費等の増大が理由でどうしても教育に振る予算がないと言うなら、研究大学を滅ぼさないために一定部分を運用で回すしかないと考えて、財務省や政治家の方々に働きかけ続けましたが、どうしても動かなかった。しかし、この本が出てから、その状況に変化が起きました。

実は新型コロナも結果的に基金創設の後押しになりました。コロナ禍の緊急対策として各世帯10万円、トータル12兆円を財政出動した特別定額給付金の半分以上は、消費せず貯金に回っただけだったことへの反省が自民党内で非常に大きかったのです。

また、2013年頃からデータサイエンティスト協会設立とともに力を入れてきたデータ×AIの素養を広めようという働きかけが功を奏して、何百もの高等専門学校及び大学で義務化された数理・データサイエンス・AI教育が大きく広がったことも大きな力になりました。

しかし、まだ実現していないこともあります。6000億円にのぼる抗生物質使用の半分は実は不要(*2)だという、東京大学喜連川研究室のレセプトデータ解析から得られた驚くべき結果などを例に挙げ、僕はデータドリブンなアプローチによって社会保障費を何兆円かひねり出す余地があると書きましたが、ついぞ行われていません。

※後編:「人手不足」は過去のものになる…安宅和人が描く「疎空間」の未来とは? に続く

【注】
(*1)まずこの本の表題につながる強烈なインスピレーションと力は映画『シン・ゴジラ』から頂きました。庵野秀明監督および制作に関わった方々に深く感謝いたします。また最終章で紹介した「風の谷を創る」プロジェクトは『風の谷のナウシカ』から得た深いインスピレーションにより始まりました。宮崎駿監督、鈴木敏夫プロデューサー、ジブリの方々には感謝の念に堪えません。(『シン・ニホン』の「謝辞」より)
(*2)抗生物質はウイルス性風邪には効かないのに投与されているという意味である。
 

安宅和人(Kazuto Ataka)
1968年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部教授。LINEヤフー株式会社シニアストラテジスト。一般社団法人 残すに値する未来 代表理事。専門は情報学、脳科学。著書に『イシューからはじめよ』『「風の谷」という希望』(いずれも英治出版)など。

土居丈朗(Takero Doi)
1970年生まれ。慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政学、経済政策論など。著書に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞)など多数。

 
 

 『アステイオン』103号


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