2015年時点の問題意識
安宅 経産省に呼ばれたそもそものきっかけは、ソフトバンク社長室の荒井優さん(対談当時衆院議員)から紹介された審議会の担当者である井上博雄さん(対談当時首相秘書官)に「未来の産業を考えている経産省の人たちがいる。どう世の中を見たら良いのか困っているので、彼らにアドバイスをしてほしい」と言われたことです。最初にお会いしたとき、次のようなことを話しました。
情報利活用の世界は「収集・処理・出力」で回るため「コンピューティングパワー」「データ」「回す人」が必要だが、日本はその3つすべてが世界でボロ負けしている。また、産業は今後、リアルワールドのオールドエコノミーと、サイバー系のニューエコノミーとの交点の世界にすごい勢いで向かっていく。
今ならわかりますよね。スマートウォッチ、電気自動車、ウーバー、エアビー、皆そうです。ごく当たり前の話をしたつもりでしたが、彼らには目からうろこだったようで、「ええっ、そうなんですか。一度投げ込みに来てください」ということで産構審に呼ばれたわけです。

土居 その産構審では、中国のAI技術についても熱く語っておられましたよね。
安宅 2015年5月に中国は「2025年までに、工業の製造能力を高め技術集約型に移行し、付加価値の高い製造業強国に発展する」という目標を掲げた産業政策「中国製造2025」を発表しています。
「周囲の国々で協力しないと、中国という巨大な龍は手に負えなくなる」という話もしたと思います。皆、怪訝そうでしたが(苦笑)。
土居 当時、日本の産業界にはまだ親中的な要素がありましたし、経済安全保障という言葉すらありませんでした。
安宅 2017年の7月に中国が発表した「次世代AI発展計画」では、第一段階として2020年にAI技術の世界水準到達、第二段階では、2025年にAI基礎理論のブレークスルー実現、一部の分野でAI技術・応用で世界をリード。そして最終第三段階では、2030年にAI総合力世界トップ水準、170兆円規模のAI産業が経済強国を支える基盤となる、としています。
僕らは、中国のデータ×AI分野での伸びを肌身で感じていました。2014、5年までは最先端サービスはSpotifyなどいくつかを除くとアメリカ発がほとんどでしたが、2015年以降はAlipay、WeChat、Toutiao、TikTokなど、中国発がほとんどです。
わがLINEヤフーのPayPayも中国のAlipayやWeChat walletを徹底研究して開発したものです。今やドローンのシェアは中国製DJIが70%ですが、それよりもずっと前から中国のパワーは急激に上がってきていたんです。
「未来は目指し、創るものだ」──リソースの再配分で未来の原資を
土居 『シン・ニホン』は、何を一番訴えたいと思ってお書きになりましたか。
安宅 本の冒頭にも書きましたが、財務省、マッキンゼー出身でウェルスナビCEOの柴山和久さんから「 “シン・ニホン” の本を早く書くべき。国をすくい上げるのに間に合わなくなる」と真剣に言われました。書かないとまずいんだなという、半ば公的なミッションのような感覚でした。
言わんとしたのは、技術革新に伴い現代の経済および人材育成のルールは大きく変わってしまった。世界観も根底から変わろうとしている。変化は常に根本的に指数関数的に起きている。日本が希望の持てる未来をつくっていくためには、ゼロベースで知恵を絞りリソースの再配分をして未来の原資を作り出す必要がある、ということでした。
土居 刊行後、どのような反響があったのでしょうか。