<AI×データ敗戦からの再生と、問い続ける日本の未来>

2015年の産業構造審議会でのプレゼンテーションが元になった話題作『シン・ニホン』と最新刊『「風の谷」という希望』に込められた新しい未来の提案について、著者の安宅和人氏に財政学が専門でアステイオン編集委員をつとめる土居丈朗・慶應義塾大学教授が聞く。『アステイオン』103号の書評対談「『シン・ニホン』から『風の谷という希望』へ」前編。

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土居 2015年9月にスタートした経済産業大臣の諮問機関である産業構造審議会の新産業構造部会で、私は安宅さんと委員としてご一緒しました。

そこで安宅さんが、「AI×データはビジネスをどう変えるか」というテーマでプレゼンをされたのは2015年10月、「データドリブン」という発想が世の中にまだ定着していない頃です。AIやビッグデータが中心となる第四次産業革命の進展や、世の中の急速な変化を見通す先見の明に感銘を受けました。

安宅和人先生

安宅 あれは10年前の産構審でしたか。当時は「データドリブン」と言っても、皆さんポカンという反応でまったくでしたが(笑)。

土居 そしてその後、「AI×データ時代における日本の再生と人材育成」という副題が付された『シン・ニホン』(NewsPicksパブリッシング)を2020年に刊行されます。

その「はじめに」は「未来は目指し、創るものだ」と結ばれており、最終章「残すに値する未来」の最終項目「4ビジョンから未来をつくる──「風の谷」という希望」が、まさに今日刊行されたばかりの『「風の谷」という希望──残すに値する未来をつくる』(英治出版、以下「谷本〔たにぼん〕」)のタイトルになっていますね(*1)。

『シン・ニホン』『風の谷という希望」

どちらの書にも「未来をつくる」という視点が貫かれていて、その実現を支えるのが「AI×データ」と最新のテクノロジーである、と。

産構審でお話を伺った頃から、コンサルティングファームにお勤めになりながら脳神経科学で博士号を取得され、その後ヤフーに移られたというご経歴が、日本の変化の予見と密接に関係しているように感じていました。

安宅 多面的につながっているとは思います。マッキンゼーから2008年にヤフーに移って最初の4年くらいは孫正義さんと井上雅博社長の直下案件を担当し、通常の全社調整機能だけでなく、様々な全社提携案件などを手がけました。

2012年に社長の交代があり、執行役員の宮坂学さん(現東京都副知事)がCEOになり、メディア部隊で宮坂さんの右腕だった川邊健太郎さん(現LINEヤフー会長)がCOOとなります。その時に研究所を含むデータとサイエンス部隊を引き継ぎました。

ヤフーではその頃既に自然言語処理や機械学習が使い倒されており、それを見て感じていたのは「収集・処理・出力」の組み合わせという基礎構造は中枢神経系と変わらないということでした。加えて、混沌としたものを体系化して考えるというマネジメントコンサルタントとしての経験も、データを見るうえで役に立ちました。

土居 確かグーグルとの交渉もご担当されたとか……。

安宅 その経験も効いています。米国のヤフー・インクが「検索および検索連動広告エンジンの開発を近々止め、マイクロソフト社の仕組みに乗り換える」という非常に大きな決定をして、「日本法人も検索エンジンをマイクロソフトにしろ」と。

しかし、われわれの査定で「それでは現状のスペックを出せない」という結論が出て、グーグルとの提携の可能性を追求します。(裏でマイクロソフト社との交渉が進む一方)ヤフー・インク、グーグルと交渉し、公正取引委員会を説得するというアクロバティックな案件を担当した数年間で、時代の流れを読む目が鍛えられました。