問題は民主党の側です。本来であれば、AIが人間の知的労働を脅かす時代、いくらでも代案を出し、必要があれば反対の論陣を張るなどすれば、若い世代の不安を巨大な政治エネルギーに変えることはできるはずです。
民主党の中ではAIの問題について比較的多くの発言をしているのは、左派のAOCことアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員です。では、彼女のスタンスはどうかというと、
1)AIに反対ではないが、開発スピードが早すぎる。また、既存の産業や雇用を破壊するのは問題視
2)AIへの民主的な監視が必要で、「差別助長」「雇用破壊」「監視とプライバシー侵害」「フェイク、ディープフェイクの問題」などを公共の立場から統制すべき
3)巨大テック企業の独占を許すな
4)AIによる環境負荷に厳しい管理を
という内容です。筋は通っているものの、全体的にはヨーロッパの反対論のコピーに過ぎません。また既成論については、進めるにしても必要な常識の範囲内とも言えます。民間セクターでの巨大化がイヤなら国営にするのか、何よりも開発が速すぎるのを問題にするなど、まるで日本の高齢者の反デジタルのような「反対のための反対」であり、画期的な主張とは言えません。何よりも現実に対抗できるストーリーは見えません。
民主党の分裂と思考停止
一方で同じ民主党でも主流の穏健派の場合、例えば2028年の大統領選出馬が期待されているガビン・ニューサム知事(カリフォルニア)の場合は、
1)カリフォルニアはAIの発信地として成長すべき
2)政府がAIを上手に使うべき
3)但し「ルールなき実用化」には反対
ということで、同じ党とは思えないような違いを見せています。カリフォルニアの知事としては、シリコンバレーが巨大な納税をしてくれるので州政が回るわけですから、テック業界にはフレンドリーになる必然はあります。それにしても、若者の危機感などとは全く別の世界に生きていると言われても仕方がありません。
民主党の側がこのような「分裂」と「思考停止」に陥っていることは、前回、2024年の選挙でZ世代の多くの票がトランプ陣営に流れたことの説明として、既に指摘されていました。トランプ政権に関しては、その後の政策が極端に過ぎたことと、インフレを改善するどころか悪化させたことで、中道票は離れたと言われています。
ですが、若者にとって切実なAIについて、中長期的な視点に立ちながら実行可能な政策につながる「世界観」を示さなければ、民主党の勝利はそう簡単ではありません。共和党への失望があったとしても、今のままでは受け皿になるのは難しいとも言えます。若者の不安に寄り添うと言って、それでもブーイングを浴びたシュミット氏の姿を、少なくともニューサム知事などは自分のこととして真摯に受け止めるべきです。そうでなければ、これから先の展望を描くのは難しいと思います。