<インフレ進行でトランプ政権への支持が揺らいでも、就職難の若者の不満に応える受け皿にはなりそうもない>

5月はアメリカの各大学で卒業式が行われますが、そこでゲストを迎えて名誉博士号を贈呈し、ゲストが卒業生へのスピーチをするのが恒例です。今年の卒業式スピーチでは「AI」が話題になっています。まず、5月8日には州立のフロリダセントラル大学(FCU)で、グロリダ・カウルフィールド氏という不動産企業の役員が「AIの進歩は次の産業革命だ」と述べたところ、卒業生たちからブーイングを浴びました。

昨年から顕著になった「AIによる初級事務職の置き換え」による「就職氷河期」に直面している卒業生からは、いくら専門外の人による一般論であっても、AIの負の側面に全く無自覚な発言は、どうしても許せなかったのでしょう。

このFCU事件が大きく話題になったのを受けて、今度は、かつてグーグルの共同経営者だったエリック・シュミット氏が、5月17日にアリゾナ大学の卒業式でスピーチを行いました。シュミット氏は、機械が進歩することで人の雇用が脅かされるという「不安」があることは理解していると述べたのです。

そして「皆さんの多くがその不安を感じているのを私は知っています」「私にはあなた方の声が届いています」と述べて、若者の不安に寄り添う姿勢を見せました。ですが、このシュミット氏の態度も盛大なブーイングを浴びたのでした。

加速するAI開発競争

著名なアメリカの就活サイト「ジップ・リクルーター」社の調査によれば、近年の既卒者の47%が「AIによる求人の縮小を実際に体験」しており、卒業の近い大学生の51%は「AIによって求人が縮小していく」という認識を持っているそうです。

アメリカの大学では、就職に強いとされ人気だった、データサイエンス、コンピューターサイエンス、ファイナンスといった専攻から、機械工学、バイオ、化学、ヘルスケアなどに専攻を変更する学生が増えるなど、一種の混乱状態にあるとも言えます。そして、実際に就職氷河期が来ています。

そんな中で、トランプ政権は中国の習近平政権との関係を改善し、是々非々ではありますが米中でAI開発に関する「競争と共存」に舵を切りました。そして、メガAI企業である「スペースX」「オープンAI」「アンソロピック」の3社は巨大な株式公開を進めています。「スペースX」の上場日は、既に6月12日という日付を前提に動いています。一方で、アンソロピックの「クロード・ミュトス」は世界中で話題ですが、これに迫る性能を持つオープンAIの「ChatGPT5.5」も発表されており、産業別の派生型も含めてその性能が評価されています。

こうなると政治の問題であることは間違いありません。このままAIの開発が加速していくと、人間の知的労働には大きな影響が出て、社会のあり方が変わってしまうかもしれないからです。この点に関しては、良くも悪くもトランプ政権の方向性は見えています。AIの開発には全力で取り組み、メガ上場も推進するし、ウィンウィンとなる部分は中国とも手を組む、こうした方向性がまずあります。

そのうえで、国内経済を最優先し、国内の雇用も優先する、具体的には製造業の復権だというイデオロギーは、ストーリーとしては辻褄が合っています。AIが知的労働を担うのなら、人間は製造業などに回ってもらうというのは、筋書きとしては成り立つからです。もちろん、対中国をはじめとして高関税政策は失敗していますから、製造業の国内回帰政策が実際に回っていくかどうかは分かりません。ただ、ストーリーということでは成り立つわけです。

まるで高齢者の「反デジタル」
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