認知戦の重要な性質をチェックリストで可視化
認知戦の議論は、偽情報の判定、ボットの検知などわかりやすいものがある一方で、全体像はつねにぼやけており、なにが問題なのか、なにをもって認知戦と呼べるかといった基本的なことでも意見の齟齬がある。偽情報の判定にしても偽情報の定義は専門家によって異なる。
さらに科学的事実や社会的事実は時とともに更新されるので、ある時点で偽情報であってものちに正しい情報となることもあり得る。偽情報そのものが問題ではないのだが、なにが問題かということになるとさらに定義は混沌となる。
ボットについては具体的な定義があるものの、AIボットについては誤動作や自白(ボット自身が自分がボットであると話すこと)以外で見つかったことは私が知る限りではない。つまり、現在検知されているものは一部にすぎず、その一部をもって全体を語っていることになる。
こうした問題は際限なく存在するため、すべてを解決することは困難というより不可能と言える。今回のチェックリストは個別の項目を掘り下げるのではなく、全体として最低限必要な項目をバランスよく網羅しているかに特化してみた。
私見であるが、認知戦のレポートにはバランスが重要と考えている。個別の項目が明瞭さに欠けているのを補完するためにも問題の全体像を描くには多角的な分析が必須と考えているのが理由だ。
特に、パーセプション・ハッキング、LLMグルーミング、許容度といった従来の認知戦レポートとは別角度での分析は全体像を知るうえで欠かせない。
認知戦の研究や対策がたくさん行われてきたのにもかかわらず、ほとんど成果をあげていないことを考えると、過去に多く用いられてきた分析方法には注意が必要なのだ。
最近公開されたカナダのレポートでは、偽のウェブ、偽装メディア、ボットなどのキャンペーンといった事後の対症療法に多大なコストをかけることを最大のリスクと呼んでいるほどである。
蛇足だが、複数のレポートを検証してみて、確認できた重要な課題がある。すべてのレポートが攻撃側に重点をおいていたことである。
これは過去のほとんどの認知戦のレポートに共通している問題で、過去の認知戦のレポートで影響(特に行動への影響)について言及したものはほとんどない。
ふつうの人ならおかしいと感じるだろう。誰にどんな影響があったのかわからなければ、その重要性や優先度はわからないし、対策も立てられない。
しかし、現実には認知戦の重要度と優先度は高まっており、各国で対策が行われている。当たり前に考えれば、そんな対策に効果があるとは思えないだろう。
まったくその通りで、世界でもっとも多くの予算と要員をこの領域につぎ込んでいたアメリカは、陰謀論大国になった事実が問題の深刻さを物語っている。今回のすべてのレポートにはいまだにその傾向が残っており、この問題を解決することの難しさを感じさせる。
しかし、影響がわからない限り、重要度や優先度の適切な判断、有効な対策はありえないので、「使えない」のだ。