健全な時代、つまりアメリカの民主主義がまだ機能していて世論が政治的に分断されていない時代なら、すぐにも公的機関の捜査が始まっていい話だ。米証券取引委員会(SEC)はプロの分析官を派遣し、米商品先物取引委員会(CFTC)は取引記録の提出を求めるはずだ。どちらも、市場の健全性を守るために存在する機関なのだから。
ところがSECの執行部門責任者は1週間前に、在任わずか6カ月で辞任していた。一方でCFTCの組織は骨抜きにされ、予測市場や暗号資産を扱う企業の元幹部らがずらりと並ぶ諮問委員会が新設されている。司法省の政府監査部門も空洞化している。
3月23日早朝の先物取引から見えてくるものは何か。それは今なお(たとえ甘いと言われても)公正さと誠実さに基づく「アメリカの約束」を信じる私たちが憂慮すべき1つのパターンだ。そこには疑わしい取引がいくつもあり、監視機関の中立性は失われ、重要な未公開情報と証券取引の口座を持つ者なら誰でも好き勝手に手を出せるような環境が整っている。
3月23日の取引はあまりに大胆だった。ロイター通信の報じた取引データによれば、午前6時49分から同50分までに北海ブレントとウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)の原油先物市場で5100~6200枚の取引があった。通常ならほとんど動きのない時間帯なのに、たった1分で5億ドル以上の資金が動いたことになる。
こうして約5億8000万ドル分の原油先物が売り浴びせられる一方、同時にスタンダード&プアーズ(S&P)500種株価指数に連動する先物契約でも最大20億ドル相当が取引された。直後に起きる展開を見透かした取引と言わざるを得ない。ちなみにホワイトハウスの職員には翌日、自らの地位を利用して先物取引に手を出さないようにとの警告が出たそうだ。