今後は気候変動対策に向けた投資額なども、企業価値として正しく評価できるようになる HRUI/SHUTTERSTOCK

「別冊資料」から法定書類へ

とはいえ長期投資の文化自体は、必ずしも新しいものではない。

1812年、英国エディンバラのカフェで、ある集会が開かれた。議題は「ナポレオン戦争で夫を亡くした寡婦たちの生活をどう支えるか」。

当時、戦死者の遺族は社会的な保障をほとんど受けられず、稼ぎ手を失い、困窮に直面するしかなかった。そこで、資金を長期で運用するスコティッシュ・ウィドウズ基金生命保険組合が設立される。数万世帯の遺族を何十年と支えるために生まれた運用時間軸は、やがて、気候変動のように世代を超えた課題に向き合うための投資哲学に発展していった。

松原によれば、今も日本企業の中には、エディンバラまで長期投資家を訪ねていく経営者がいるという。四半期ごとの業績に一喜一憂するのではなく、企業の思想や存在意義を理解しようとする投資家の元へ。

「そういう投資家が日本にもっと現れてほしい、と経営者から言われることが増えた」

創業100年を超える企業は世界に約7万4000社。そのうち約半分が日本企業と、圧倒的な割合を占めている。

何代にもわたって事業を受け継ぎ、地域や社会との関係を守りながら存続すること。長期的な視点で経営を語ること。日本企業にとって、決して不慣れなことではないはずだ。SSBJ基準は、そうした経営の思想を投資家に伝えるための共通言語になり得る。

巨額の資金を運用する日本の機関投資家にとっても、SSBJ基準は待ち望んでいた仕組みだ。

将来の稼ぐ力を左右する
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