もちろんこうした動きには、国連が投資にESGを組み込むことを求めた責任投資原則(PRI)や、パリ協定などの国際的な潮流も重なっている。だが、原動力の1つになったのは「この情報がなければ、企業価値の正しい判断ができない」と声を上げた投資家たちだった。
意外な歴史だったかもしれない。あなたは「投資家」と聞いて、どんな姿を思い浮かべただろうか。モニターに張り付いて、短期的な利益のため秒単位で売り買いを繰り返すデイトレーダーではなかったか。サステナビリティ開示の歴史を動かしてきたのは、「長期投資家」と呼ばれる、まったく別の種類の投資家だ。
りそなアセットマネジメント執行役員の松原稔は、長期投資家の影響力が高まるようになった社会背景をこう語る。
「経済が成熟すると、稼ぎを回すフロー型から、蓄えを運用するストック型に進む。何十年も先を見据えた運用資金が増えた結果、『数字に表れない企業価値』を見極めようとする動きが大きくなっていった」
この構造変化を、かつて経営学者のピーター・ドラッカーは「見えざる革命」と呼んだ。年金基金が機関投資家として企業の大株主となる時代。近年のNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)の急拡大も、この流れの中にある。
松原はこれを「ワーカーズキャピタル(労働者の資本)」の台頭だと捉え直した。私たちの老後資金は、「長期的な視点で企業を見極める資本」として市場に流れ込んでいる。
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