<開催国と参加国が戦争状態というW杯史上前例のない事態で注目されるFIFAの対応>

3月11日、イランのスポーツ相アフマド・ドニャマリは、同国の男子サッカー代表が今年6月と7月に北米で開催予定のワールドカップ(W杯)に参加する「可能性はない」との見方を示した。

米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃を受けたものだ。

サッカーのW杯開催国が、大会参加国の一つと戦争状態にあるという事態は、これまで一度もなかった。

長年にわたる多国間の緊張に対し外交的解決策を見いだせていないことは、石油供給や貿易ルートに影響を与えただけでなく、世界最大級のスポーツイベントの一つを複雑化させている。

トランプに平和賞

2025年、サッカー統括団体である国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティーノ会長は、初の「FIFA平和賞」の創設を発表した。

FIFAは、この賞について次のように説明した。

人々を結びつけ、次世代に希望をもたらす個人の多大な努力を称えることを目的とする。

2026年1月、米国のドナルド・トランプ大統領がこの栄誉に最もふさわしい受賞者とされた。

米国がガザ紛争においてイスラエルと連携していることや、トランプ政権の権威主義的な政策により国内の市民的自由が大きく後退したことなど、この賞の趣旨と相いれない数々の行動があるにもかかわらずである。

トランプが「平和賞」を受賞してから2カ月後、米国はイスラエルとともにイランに対する軍事行動に踏み切った。

一部の批評家がトランプの受賞は取り消されるべきだと主張しているのも無理はない。

3月10日にFIFA会長のジャンニ・インファンティーノと会談した後、トランプはイラン代表について「歓迎して試合に参加させる」と保証した。

しかしその直後、トランプは自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に、歓迎するつもりはないと次のように投稿した。「彼らがそこにいるのは、彼ら自身の命と安全のためにも適切ではないと私は考える」

この含みのある警告に対し、イラン代表は反発し、「いかなる個人も一国をW杯から排除することはできない」と主張するとともに、参加国の安全を保証するのは開催国の責任だと強調した。

選手たちは、たとえスポーツ相が望み薄と見ていても、大会への参加を望んでいる。

現時点では、W杯に向けた準備としてトルコで行われるナイジェリアおよびコスタリカとの親善試合は実施される予定だ。

米国以外での参加を

イランはW杯のグループステージで、カリフォルニアとシアトルで3試合を戦う予定となっている。

チームを統括するイラン・イスラム共和国サッカー連盟(FFIRI)にとって、米国での試合は大きな懸念材料となっている。

同連盟のメフディ・タジ会長は次のように述べた。

「我々はワールドカップに向けて準備を進める。米国はボイコットするが、W杯はボイコットしない」

イラン側は、米国と大会を共催するカナダまたはメキシコでの試合実施が認められることを求めている。

メキシコは受け入れに前向きとみられる。3月17日、クラウディア・シェインバウム大統領は「状況次第では、イランのグループステージの試合を受け入れる用意がある」と述べた。

しかしFIFAは、イランの試合を米国から移すことには消極的だ。

イランにとっては優勝争いよりも大会参加そのものが重要とみられる。決勝進出チームはニュージャージー州のメットライフ・スタジアムで試合を行うが、イランは米国でのプレーを望んでいない。

一方でFIFAは、イランが出場しない場合の代替措置について非公式に検討を進めている。

これには、イランの出場枠を空席とし対戦相手が不戦勝となる案や、アジア予選で僅差で敗れたイラクまたはアラブ首長国連邦(UAE)のいずれかのチームを繰り上げで出場させる案が含まれる。

ただしイラクは大陸間プレーオフに進出し、ボリビア対スリナムの勝者と対戦する予定となっている。

アラブ首長国連邦は当該のアジア予選でイラクに敗れているが、もしイラクが大陸間プレーオフに勝利した場合、FIFAの裁量でワールドカップ出場の機会を得る可能性もある。

「中立」FIFAの地政学危機

FIFAは自らを「政治的に中立」な組織と位置付けている。

しかし2026年W杯ではロシアを予選から除外している。

FIFAはその理由を運営上の問題だと説明している。多くの国がロシアとの対戦を拒否し、試合を組めば安全面への懸念が生じるためだという。

イスラエルは予選で敗退した。インファンティーノは内心、これに安堵している可能性がある。ガザ戦争や、レバノンおよびイランへの最近の攻撃で、ロシアと同様の問題が浮上していた可能性があるためだ。

W杯やその予選からの撤退(または出場停止)は、これまでにもいくつか例がある。

・1950年のブラジル大会では南米への渡航費が問題となり、インド、トルコ、フランスが出場を辞退した。

・1958年のスウェーデン大会で、インドネシアはイスラエルとの対戦を拒否し、予選を撤退した。

・1994年、バルカン紛争を受け、国連がユーゴスラビアのセルビアとモンテネグロにスポーツ制裁を科したため、出場停止になった。

これらのケースでは、いずれもFIFAによる追加の処分は行われなかった。

今回、イランがW杯から撤退した場合、FIFAはFFIRIやイランの代表チームに参加義務違反の制裁を科すのかどうかが注目される。イエローカードに相当する金銭的制裁の可能性はあり、次回大会への出場停止というレッドカードもあり得る。

もっとも、今回のように開催国と出場国が戦争当事国同士というのはW杯史上前例がなく、FIFAが制裁を科さない判断を下す可能性もあるとみられる。

The Conversation

Daryl Adair, Associate Professor of Sport Management, University of Technology Sydney

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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