2つ目は「下町」。「下町ボブスレー」という絶妙なネーミングからは「人情にあふれた町工場の手仕事」というイメージがにじみ出る。しかし実際には車体は大企業が担当し、スポンサーにも有名企業が名を連ねている。

その下町のものづくりで世界を目指す物語は、ハッピーエンドを迎えられなかった。それだけの話だ。だが騒ぎの広がりを見るにつけ、当事者にも周囲にも「日本の技術なら、ジャマイカが採用するボブスレーは作れる」という思い込みがあったかに思える。

だとすれば、そこにあるのは「ものづくり」に対する日本の自信過剰だ。ジャマイカと「運命共同体」として五輪へ行くという物語の下、職人の技を世界の舞台で披露したいという、いささか自己陶酔的なメンタリティーだ。

ジャマイカが採用したラトビア製のそりは、BTC社という従業員6人の工房が作っている。ラトビアはボブスレー製造の経験が豊富で、外国チームにそりを提供した例も多い。

下町ボブスレーが追求したかった「匠(たくみ)の技」を本当に持っていたのは、ラトビアの小さな工房のほうだったのかもしれない。

本誌2018年5月15日号「特集:『日本すごい』に異議あり!」から転載

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