あるとき、彼が女の子の一人に話しかけようと少し体に触れた。すると彼女は、突然ビンタでも喰ったかのように大声で泣き出してしまった。彼は体が震えるほどの衝撃を受けた。(61ページより)
祖父母からは日本のよいところばかり聞かされ、日系人はブラジルで信頼されていたため、もともと日本への憧れがとても強かったのだという。「日本は天国のようなところで、いい人ばかりだと思って」いたからこそ、期待感とのギャップが大きすぎたということだ。
【参考記事】このシンプルさの中に、日系人のアイデンティティーが息づく
イメージと現実とのギャップ、そこに絡みつく誤解や偏見については、大泉町の町長も認めている。
メディアを通して見れば、この町は異国情緒がふんだんで面白いところ、というイメージになるでしょう。だが正直に申し上げれば、現実には極端な陽と陰の部分が存在しています。
今この町の日系ブラジル人の七割強は、十年以上在住している方々です。ですから近年は、彼らがここに住み始めた頃には起きえなかったような問題が生じています。(144ページより)
具体的には、かつては日系人との「交流」が課題であったものの、時代の経過とともに「共生」に向けた取り組みを考えなければならなくなったのだという。日系人の定住化が進んだ結果、税金、教育、医療、DVなどさまざまな分野で問題が発生し、あらためて共生に向けた対策を強化する必要に迫られることになったということだ。
ただ、こういうことばかりを強調する必要はないかもしれない。なぜならこれらの問題は、見えにくい暗部にもきちんと目を向けているという、本書の「一部分」にすぎないからだ。