<米南部を襲った巨大ハリケーン「カトリーナ」の壊滅的被害から20年。ニューオーリンズは次世代に夢をつなぎ、力強くよみがえろうとしている>


▼目次
1.未来へ託す「カトリーナ」のレガシー
2.世代をつなぐ声とアート
3.人々が暮らし続けられるために
4.私たちはこの場所を知っている

1.未来へ託す「カトリーナ」のレガシー

街路の下の地層のように、何層にも重なった人々の記憶の上に築かれてきた都市――人々の暮らしに息づくリズムと伝統、そして苦難を吹き飛ばすパワーを糧に、独自の文化が力強く勃興する都市。

ここニューオーリンズでは、ハリケーン「カトリーナ」襲来20周年は、歴史の一里塚(いちりづか)というだけでなく、深い内省の機会ともなる。

この街に拠点を置く著名な画家で、スタジオ・ビーの創設者でもあるビーマイクことブランダン・オダマスはこの内省の機会を若い世代と分かち合おうと思い立った。

カトリーナが猛威を振るった時にはまだ生まれていなかった若者たち。彼ら「災害を知らない子供たち」の声を聞きたいと思ったのだ。

そこでスタジオ・ビーで毎年開催している若手アーティスト育成プログラム「エターナル・シーズ(永遠の種)」で、この夏はカトリーナをテーマに据えることにした。

プログラムに参加した研修生は全員、カトリーナがニューオーリンズを直撃した2005年8月29日以後に生まれた若者たち。

6週間のプログラムでドキュメンタリー映像や詩、被災者の体験談などを通じて20年前の悲劇を学んだ。

そしてその集大成として、研修生たちは市内のロウワー・ナインス地区の堤防に壁画を描いた。

この堤防が決壊して洪水が街を襲ったのだから、ここはまさにグラウンド・ゼロ(被災の中心地)とも言うべき場所だ。

研修生たちが描いた壁画は後世に災害の教訓を伝えるモニュメントというだけではない。見る人に強い衝撃を与える生命力あふれる作品だ。

「プロジェクト全体を包むテーマは追悼、神話、想像力だ」と、オダマスは本誌に語った。

研修生たちにはカトリーナについて学ぶだけでなく、「過去の物語を自分たちの物語にしてほしかった」と彼は言う。

「大事なのは過去の遺産、つまり街の歴史に自分たちをどう組み込むか、だ。想像力は未来を夢見る力でもある。彼らは未来のニューオーリンズをどんな街にしたいのか、が問われている」

2.世代をつなぐ声とアート

この問いに対する答えは完成した壁画だけでなく、その制作過程にも見いだせる。

カトリーナは甚大な被害を及ぼした。死者は1300人以上。ニューオーリンズは市域の約80%が浸水し、ルイジアナ州全域および近隣の州で100万人を超える人々が住み慣れた家を捨て他地域に避難した。

被害総額は推定1610億ドル。人口比に対し黒人と低所得層の死者数が著しく多いこともこの災害の特徴だ。

プログラムが始まった段階では、研修生はカトリーナのことをほとんど知らなかった。彼らの大半は親から被災体験を聞かされていなかったのだ。

プログラムはこれを「世代間ギャップ」と捉えるのではなく、「入り口」と位置付けた。

研修生たちは被災した市民の話を聞いた。語り手の中には、トランペット奏者のアービン・メイフィールドや詩人のサニ・パターソン、市議のオリバー・トーマスら地元の著名人もいて、個人的な体験をシェアしてくれた。

学びの総仕上げである壁画は、こうした体験者の語りに基づいたものだ。

カトリーナ以前、カトリーナ、カトリーナ後と未来の3つのセクションで構成され、当時の写真や記事の切り抜き、家族のアルバムなど追悼のモチーフを織り込みつつ、未来を構想させる作品になっている。

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研修生が描いた壁画の前で思いを語るオダマス MARIO TAMA/GETTY IMAGES

「研修生は自分たちが望む未来のニューオーリンズを描いた」とオダマスは言う。

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