番組自体はドタバタ喜劇であったが、番組関係者(俳優・演出家・作家)たちが笑い飛ばそうとしたのはサウジアラビアの既存の社会が抱えるさまざまな矛盾点であった。そのため、既存の価値観を守り、拘泥し、そこにみずからの生きる意味を求めている階層にとっては『ターシュ・マー・ターシュ』は危険であり、自分たちの存立基盤を脅かすものにも見えたにちがいない。

笑いの標的になったのは、女性問題であり、部族問題であり、官僚制度であり、さらには宗教問題である。

たとえば、サウジアラビアでは2018年まで女性は車の運転が許されなかった。サウジアラビアは完全な車社会であり、どこにいくにも車は必需品である。その重要な移動の手段と権利をサウジアラビアに住む女性たちは長年奪われていたわけだ。

当然、この問題も『ターシュ・マー・ターシュ』で槍玉に挙げられる。もちろん、ある程度の家庭であれば、運転手を雇うこともできるが、それ自体、女性は家族以外の男性と同じ場所にいることが許されないというイスラームの戒律に抵触するはずだが、番組で俎上に載せられたのは、男性にとってより切実な問題である。

妻のために雇った外国人ドライバーが休暇でいなくなる。すると、夫が、買い物やら何やらで妻をどこかに連れていったり、子どもの学校の送り迎えをしたりするなど、自分の仕事を犠牲にして、すべてこなさねばならなくなり、右往左往するといったぐあいだ。

また、とある国の話として、そこでは女性にはロバに乗る権利があるが、それだと女性が男性から丸見えになってしまうので、地下に女性専用のトンネルを作ろうとしたり、そのロバの背に箱を乗せて女性はそのなかに入って移動するようにしたりするといった議論をして、結局町に壁を作って女性だけが住む地区と男性だけが住む地区に分割する、というのもあった。

さらに、テロ組織のアルカイダや「イスラーム国」を支持するような過激主義者の問題も同様である。

この種のテーマで一番有名になったのが、「テロリズム・アカデミー」という回であろう。主人公は間抜けなテロリストで、米国大使館を爆破しようとしにいくが、道がわからず迷子になってしまう。テロ組織の幹部はこれではまずいというので、「テロリズム・アカデミー」というイベントを開催する。

「テロリズム・アカデミー」は、その昔、日本でやっていた『スター誕生!』のようなタレント・オーディション番組のテロリスト版である。いろいろな課題を経て、優勝者には、セクシーな衣装をきた女性から爆弾を装着した自爆テロ用のベルトを贈呈されるという内容となっている。

ちなみに、「アカデミー」というタイトルは、当時アラブ諸国で大人気の『スター・アカデミー』という番組のパロディーでもある。

湾岸戦争で国営メディアの権威は失墜してしまった
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