広がる国交断絶の波紋

 サウジアラビアによるシーア派宗教指導者の処刑が、テヘランでのシーア派民衆の抗議デモにつながり、テヘランのサウジ大使館が放火されたことから、サウジはイランとの外交関係断絶を発表した。続いて、クウェートは駐イラン大使を召還、バーレーンはイラン行きの直行便を停止するなど、サウジに同調する動きを見せている。

 今回のサウジ・イラン危機の根底には、中東でイランの影響力が強まることに対するサウジや湾岸諸国の反発がある。しかし、サウジの今回の集団処刑は、サウジがイランを挑発して、国交断絶に持っていこうと仕組んだものとは考えられない。

 処刑を決めたのはサウジの国内治安やテロ対策を担当する内務省である。内相は副首相を兼ねる国王に次ぐ有力者のムハンマド・ナイフ第1皇太子であり、外交的な波及を前もって勘案して、治安対策をとったとは考えにくい。あくまで国内治安を守るために、集団処刑が行われたと考えるべきである。

 つまり、シーア派宗教者を処刑しても、それによりイランで大きな反響が広がるとは予期しなかったということだ。テヘランでの民衆の暴走がサウジ大使館の焼き討ちまで進むことまでは誰も予想できないとしても、イランで何らかの反発が起こると考えないようでは、それ自体がサウジ政府の外交感覚が問われることに変わりはない。

 特に昨年11月、ウィーンでのシリア支援国外相会合で、それまでそっぽを向いていた米国、ロシア、イラン、サウジがシリア和平に関わるという枠組みができ、1月中にも国連の仲介でアサド政権と反体制派の協議が予定されている。その直前に、その枠組みを壊すような危機が起こったことには、米国もさぞかし頭が痛いことだろう。

-----

シリア和平協議に避けられない悪影響

 先に外交への影響について書くならば、イランとの国交断絶を発表したサウジのジュベイル外相は、国連のデ・ミストゥーラ・シリア担当特使との会談で「シリア和平会議には影響しない」と言っているが、ほとんど説得力はない。外交的には米オバマ大統領の念願だったイランとの関係正常化に向けた道が、昨年春の核協議の最終合意によって開いた。米国が中東の安定を危うくしないで、中東からの軍事的関与を引き下げるためには、イラク問題でもアフガニスタン問題でも、シリア内戦でも米国がイランと外交的に直接関与する関係を作らねばならない。

 核問題の合意は昨年10月に発効し、それを受けてこれから欧米で対イラン制裁解除に向けた動きが始まる。米・イラン新時代はまずシリア和平協議が最初の試金石になるはずだった。なのに、いきなりサウジ・イラン国交断絶という事態が降ってわいたように起こったのである。

宗派対立で利を得る「イスラム国」

 これによって、イラクでもシリアでも、さらにイエメンでも危ういスンニ派とシーア派の対立が激化するとなれば、シリア和平がうまくいかないどころの話ではなくなる。なぜなら、「イスラム国(IS)」は、イラクやシリア、イエメンで「シーア派の攻撃によるスンニ派の受難」を宣伝し、「対シーア派ジハード(聖戦)」を掲げる。宗派対立の激化は、スンニ派世界でISが力を得ることにつながる。

 スンニ派とシーア派の抗争はイラク戦争後の2006年にイラクで始まり、毎日のようにバグダッドで100体以上の惨殺された死体が路上で見つかるなど悲惨な状況となった。それがISの前身である「イラク・イスラム国」が生まれる契機となった。イラクの宗派抗争はイラク国内で治まっていたが、サウジ・イラン危機が激化すれば、宗派抗争がペルシャ湾岸周辺国から中東全域に広がりかねない。