最新記事

中東

後藤さんと被災地取材を共にして

311直後の被災地でも後藤さんは子供たちにカメラを向けていた

2015年2月1日(日)17時00分
小暮聡子(本誌記者)

一貫した姿勢 避難所となった石巻市内の中学校で撮影する後藤健二氏(2011年3月25日) ©Satoko Kogure

 後藤健二さんの姿がテレビに映し出されるたび、時間と空気が止まったような感覚に陥ります。ご家族のお気持ちを思うと、言葉もありません。

 後藤さんとは1度だけお仕事をご一緒したことがあります。

 私は311直後、ユニセフの支援チームと一緒に宮城に入ったのですが、そのとき後藤さんはユニセフの活動の記録係を担当されていました。避難所になっている中学校の体育館に入ると、避難している子供たちはみんな元気がなくて、大人しく座ってテレビを見ていました。そこにユニセフが玩具などの支援物資を提供し、元気を取り戻した子供たちに後藤さんは笑顔でカメラを向けていました。各社の記者たちがメモ片手に子供たちからコメントを取ろうと必死になるなか、後藤さんは途中から自分も子供たちと一緒になって遊んだり、被災したお母さん方と取材という風でもなく普通に会話をしていました。今思えばそれが、後藤さんが中東でそれまでも、その後もずっとやり続けてきたことなのだと思います。

 津波にすべて流された地域を前にして、後藤さんは私に言いました。「小暮さん、僕はこれまでいろんな戦場を見てきたけど、こんな光景は見たことがない」。私は戦場を見たことがなかったので何だか恥ずかしくなって、あいまいな言葉を返したような記憶があります。後藤さんがそれまで見てきたものと、私が見てきたものは、あまりにも違い過ぎました。

 後藤さんが車の中でしきりに「~だっちゃ」という言葉で話しているので、「だっちゃって何ですか」と聞きました。後藤さんは助手席からこちらを振り返って、仙台弁だと教えてくれてくれました。後藤さんは仙台出身なのだそうです。今や「被災地」となったご自分の出身地を仕事として取材するのはどんなに辛いだろうと思いましたが、後藤さんは終始落ち着いていて、プロフェッショナルでした。それでいて、打ちのめされた現場を明るくするような、人間味のある方でした。

 私は、後藤さんが殺害されたとされる映像を観ることができていません。この件で真摯な報道を続けているCNN東京特派員のウィル・リプリー記者は映像を観て、自分のツイッターに、後藤さんは「met his end with dignity at the hands of pure evil(悪魔の手の中で、最期まで威厳を失わなかった)」と書きました(リプリー記者は「自分は仕事の一環として観たが、一般の人はテロリストのプロパガンダであるこのビデオを観るべきではない」とも言っています)。報道を通して見る後藤さんは、その表情から伺えるように、最後までご自分の信念と自分らしさを貫かれたと思います。

 強さと優しさを併せ持ったジャーナリスト、後藤健二さんに最大の敬意をもって、安らかなお眠りをお祈り申し上げます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏が閣僚刷新検討 イラン戦争が打撃 選挙控

ワールド

商船三井のLPG船がホルムズ海峡を通過 日本関係2

ワールド

ドバイの米オラクル施設に迎撃破片が落下、負傷者なし

ワールド

トランプ政権による大学への人種データ開示命令を仮差
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 5
    イラン戦争は「ハルマゲドンの前兆」か? トランプ…
  • 6
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 7
    【写真特集】天山山脈を生きるオオカミハンター
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 10
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 10
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中