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妊娠22週で、胎児は思考力や感覚を持つ? 「妊娠中絶の罪」を科学から考える

ABORTION AND SCIENCE

2022年06月30日(木)18時24分
デービッド・フリードマン(科学ジャーナリスト)

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妊娠15週以降の中絶を禁止するミシシッピ州法の合憲性を問う連邦最高裁の裁判をめぐり、記者会見を開いた共和党の上院議員たち ALEX WONG/GETTY IMAGES

これに倣って新生児集中治療室(NICU)でも、人工呼吸器の完備や室温の徹底管理、輸液の厳密な投与、脳機能のモニタリングといった細かな改善が進められた。感染症の芽を早期に摘む努力にも力が注がれてきた。その結果が、超早産児の生存率の大幅な上昇だ。

「妊娠24週以降に生まれた子の生存率はかなりよくなっている」と、最近ワシントン大学医科大学院教授を引退した産科医のマイケル・ネルソンは言う。「妊娠22週が生存率の分岐点と見なされるようになったのは、本当にここ2年ほどのことだ」

とはいえ、このレベルの生存率を達成するためには、専門医のチームを常時確保しておく必要がある。アラバマ大学バーミングハム校のNICUには、350人ものスタッフがいる。こうした大規模なNICUでは、一度に20人以上の新生児の治療に当たっていることも少なくない。

そのための費用は1人当たり10万ドル以上とも言われる。このため多くの病院にとって、先進NICUを持つこと自体が難しい。病院によって早産児の生存率に大きな差があるのはこのためだ。

子宮外で生きられる分岐点は早まる?

たとえ最先端の救命措置を受けられても、妊娠22週で生まれた超早産児は極めて脆弱だ。皮膚は紙よりも薄く、肺は自力で空気を吸い込めるようになるまで3カ月以上かかる。脳はまだ基本構造を形成している最中で、出血しやすい。

胎児が正常に発達するためには触覚、嗅覚、聴覚を通じて母親とつながっていなければならない。だが温度と空気が精密にコントロールされた小さな保育器の中でチューブにつながれていては、それもままならない。「母親との絆のために、子供の健康と安定を危険にさらすわけにはいかない」と、エール大学医学大学院の小児循環器専門医キャサリン・コシフは言う。

妊娠22週で生まれて助かった子供が存在するからといって、多くの専門家は同様のケースが常識になるとは考えていない。近い将来、胎児が子宮外で生きられる分岐点が20週まで引き下げられると考える専門家は、探してもなかなか見つからない。そこまで週数が早い胎児は、臓器も細胞も非常に未熟だからだ。

「妊娠22週の手前に今の技術で乗り越えられない生物学的な壁があるのは確かだ」と、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)で倫理学と周産期医学を教える新生児専門医のジョン・ワイアットは言う。

しかもこれまで話題にしてきたのは、あくまでも生存の可能性。体の広い範囲に生じる障害や、一生にわたって必要となるかもしれない医療や家族によるサポートも考慮しなければならない。

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