Picture Power

【写真特集】ウトヤ島乱射事件、惨劇の被害者との10年目の再会

ONE DAY IN HISTORY

Photographs by ANDREA GJESTVANG

2021年07月31日(土)16時30分

イルバ・シュウェンケ (当時15歳)

<今も3分の1以上がPTSDに苦しみ、テロの背景となった極右的憎悪の検証を望んでいる>

2011年7月22日、ノルウェーの爆破・銃乱射テロで77人の命が奪われてから今年で10年。労働党・青年部(AUF)のサマーキャンプが行われていたウトヤ島での銃乱射では、犠牲者69人のほとんどが子供や若者だった。

翌年8月に独立調査委員会が発表した報告書は、政府と警察の対応を激しく批判。警察は首都オスロの政府庁舎爆破を防げたし、もっと早くウトヤ島に到着して犯人アンネシュ・ブレイビクを捕らえられたはずだと結論付けた。

私はテロ後の数カ月間に、銃撃を生き延びた若者43人を撮影し、12年に写真集『歴史上のある一日』として出版した。それから9年がたち、彼らの何人かを再び撮った。

パートナーや子供たちと静かに暮らしている人もいれば、政治家になった人もいる。よりよい世界を目指して闘っている人もいる。今もPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ人は3分の1以上。多くの生存者が、テロの背景にある価値観や陰謀説、極右的な憎悪の検証を望んでいる。

――アンドレア・イェストバン

pputoya02.jpg

【イルバ・シュウェンケ (当時15歳〈冒頭写真〉/ 現在24歳〈上〉)】
殺戮が起きている間、イルバは「恋人の小道」(下の写真)の近くに隠れていたが、肩と腹部、両ももを撃たれた。事件後、彼女はこう語っていた。「この傷痕に誇りを持っている。自分が信じるものと引き換えに受けたものだから。私が意気消沈しても誰のためにもならないし、まして自分のためにならない。だから私は毅然と振る舞い、人生の楽しいことに集中する」

現在はジャーナリストとして働き、秋には大学の修士課程に進む。「いま悩んでいるのは、どう生きるべきか分からないといった20代にありがちな問題。つらいときや、困難にぶつかったときは自分にこう言う──あなたは14歳で死んでいたかもしれないのだ、と。今は問題があっても、少なくとも生きている。そう考えると、物事をより広い視点で見られる」

過去の自分にはこうアドバイスする。「将来、とても多くの善良な人に出会うだろう。与えられたチャンスに挑戦し、旅をして、働き、修士号を取る。幸せを感じても、やましく思わなくていい。事件のことが遠く感じられるようになったら、以前と同じく日常の小さなことが気になるだろう。でもそれは事件を忘れたわけではなく、違う形で思い出しているだけだ」

pputoya03.jpg


pputoya04.jpg

【トルヘ・ハンセン (当時14歳〈上〉/ 現在23歳〈下〉)】
銃撃テロに遭った当時、トルヘは14歳。サマーキャンプ参加者の中で最年少だった。

トルヘは兄ビリヤルと、数人の若者と共に「恋人の小道」の下に隠れていたが、兄が撃たれると湖へ泳ぎだした。だが銃弾が飛んできたため、方向転換して水中に潜り、その後ボートに助けられた。

現在は若者や子供相手の仕事をし、音楽やアート作品を作っている。「暗闇が生きる力をくれると、僕はずっと思っていた。苦痛や死のこと、人はいつ死んでもおかしくないという事実が頭から離れない。未来のことは考えない。成功しようという野心なんて僕には必要ない。今を十分楽しんでいるから」

pputoya05.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米とウクライナ、和平案を「更新・改良」 協議継続へ

ビジネス

FRBの金融政策は適切、12月利下げに慎重=ボスト

ビジネス

米経済全体の景気後退リスクない、政府閉鎖で110億

ワールド

アングル:労災被害者の韓国大統領、産業現場での事故
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story