Picture Power

打ち捨てられたイタリア文化遺産

DYING BEAUTY

Photographs by Stefano De Luigi

打ち捨てられたイタリア文化遺産

DYING BEAUTY

Photographs by Stefano De Luigi

シチリア島のセリヌンテにある古代ギリシャの遺跡、ヘラ神殿。いくつかの修復家チームが損壊を防ごうと手を尽くしてきたが、費用不足の影響は大きい。最後に修復作業が行われたのは80年代だが、鉄の棒が石に残されたままでかえって痛みの原因になっている(14年5月)

 「コロッセオ(円形闘技場)がある限り、ローマはある。コロッセオが崩壊すれば、ローマは崩壊する。ローマが崩壊すれば、世界が崩壊する」。8世紀の聖職者ベーダのこの言葉は、勝利の可能性と戒めを垂れるものとして今日でも示唆的だ。

 芸術・文化遺産が数多いという点で、イタリアは世界でも比類なき存在だ。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の文化遺産の数は世界一だし、憲法で「歴史・芸術遺産」の保護をうたう数少ない国でもある。

 だが経済危機による財政難で、多くの文化遺産や遺跡が修復されないまま、崩壊の危機にある。写真家のステファノ・デ・ルイージは南のシチリア島から北のベニスまでイタリア中を回り、その現状を写真に収めた。

 考古学者で歴史家のサルバトーレ・セッティスは、イタリアの文化遺産は欧州共通のアイデンティティーを形成するのに貢献できると指摘する。「博物館や記念碑がたくさん存在することで、イタリアには独特の統一感が生まれている」

 遺産を朽ち果てるまま放置する代わりに上手に活用すれば、イタリア経済にとっても再生のチャンスとなるのだが。

Photographs by Stefano De Luigi

<本誌2015年5月19日号掲載>


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