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イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

ロシアの敵対国リストに入ったイタリアの今後とロシアを全面バックアップする中国

iStock- Happycity21

| ロシアは敵対国のリストにイタリア、そして日本も

イタリアがロシアから敵対国であると公表された後、直ぐにイタリアのルイージ・ディマイオ外相がコメントした。

「私たちはそうなるだろうと思っていました。私たちはモスクワの富裕層に打撃を与えているのですから。」とコメントをしている。

ディマイオ外相は、「モスクワ証券取引所は閉鎖され、ルーブルはその価値の30%を失い、戦争反対を叫び、平和を願った15,000人のロシア市民が投獄された。この出来事は、プーチンがロシアを他の世界の国々からどれだけ孤立しているのかを露呈している。」と付け加えた。

この敵対国リストには、ウクライナはもちろんのこと、イタリア以外のEU諸国、米国、英国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、スイスが含まれている。

ロシアにとって、イタリアを敵対国のリストに含めることはどのような結果をもたらす可能性があるのだろうか。

イタリア政府は、外交諜報機関からの指摘に基づいて 、今後ロシアが実施可能な「報復」についてを予測し分析した。
その「報復」は、原材料からエネルギー、ロシアで事業を行うイタリア企業のダメージや銀行に至るまでのリスクを分析したものである。
また、これは中長期的に起こり得ることであると予測されている。


| ロシアはルーブル通貨のみで払い戻しをすると強気の発言

ロシアがSWIFT(国際銀行間通信協会)の締め出し制裁を受け、外貨準備の凍結措置を受けたことで、国外への外貨送金規制を強化した場合は債務不履行(デフォルト)を起こすだろう。

現在、ロシア政府は、海外投資家に対してルーブル建て国債の利払いを停止している。
ロシア国債の海外投資家への次の利払いの期限が来るのは3月16日。
支払い猶予期間は30日間である。ここで利払いが滞れば4月中旬にはデフォルトの認定がされると予測されている。

敵対国としてロシアのブラックリストに登録された国々の企業への支払いは、商業契約での支払い通貨単位が当初の約束している通貨単(ユーロやドルやポンド)ではなく、ロシアの通貨ルーブルでのみクレジットを返済してやるというのがロシア側の言い分である。

イタリアや他のヨーロッパ諸国間での取引の場合は、支払いの通貨はほとんどの場合がユーロであるが、もしも、対ロシア企業との契約がユーロ払いであると交わされていた場合であっても、ロシアはルーブルで支払うと...。

ほぼデフォルトに陥っている国ロシアが考えた報復の1つがコレであった。

ロシア側では、モスクワ中央銀行の準備金をユーロ、ドル、ポンドは全て凍結すると言っている。西側欧州連合の対ロシア制裁に対して、ロシアが考えた仕返し報復は、西側に巨大な損害をもたらしたいとする策略である。

先月の2月16日以降、つまりウクライナに対する攻撃の最も緊張した段階から、ルーブルの価値はすでに切り下げられており、ルーブルで支払ってもらっては、欧米諸国の企業には打撃である。

ロシアの通貨ルーブルは、2月28日、対米ドルで過去最安値に落ち込んだ。
金融レベルでは、ロシアの事業体が債権者に対して事実上デフォルトを起こすだろうと言われている。
すでに多くの価値を失ったルーブル通貨で返済されてしまっては、ロシア企業相手に商売をし、売掛金が残っていた欧米諸国の企業は共倒れするリスクが高いということである。

発行機関は、企業が海外での支払いに対応できるように*ハードカレンシー を提供できなくなり、企業自体は現在、海外市場が排除されているため、ドルまたはユーロでの収益が大幅に減少している。
ロシア中央銀行はルーブルを増印して企業に供給することしかできない。ロシア企業はイタリア、ドイツ、フランスの債権者にルーブルで支払うと言うが、ルーブルでのマネーサプライの増加は、今度は切り下げとなりインフレになる。


三菱UFJ信託銀行より【年金用語集(ハードカレンシー) - 三菱UFJ信託銀行】

用語解説 ハードカレンシーより引用

「国際通貨」や「決済通貨」とも呼ばれ、外国為替市場において、他国通貨と交換可能な通貨のこと(米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、スイスフランなど)。流通量が十分であること、発行国の政治経済が安定的で信用力があること、国際的な銀行で換金が可能であることなどが条件。なお、ハードカレンシー以外の通貨は、ソフトカレンシーまたはローカルカレンシーと呼ばれる。

| 銀行のエクスポージャー(リスクにさらされている資産,銀行の与信)

国際決済銀行によると、イタリアの銀行は、ロシアへのエクスポージャーの総量を受け、ヨーロッパで最初の国となるだろうとの事。

2021年9月30日時点で253億ユーロ。

イタリアの銀行はヨーロッパの銀行でもあり、2014年クリミナ攻撃後、ロシアへのエクスポージャーは減少した。
一方、ドイツとフランスの銀行は、ポジションを大幅に削減した。

| エネルギー問題

ヨーロッパの参照市場であるアムステルダムのTtfによるとガス価格は、MWhあたり295ユーロでピークに達した。1年前と比較して10倍以上である。1年前、同じガスのコストは1メガワット時あたり約18ユーロだった。

イタリアでは天然ガスが重要な役割を果たしていて、毎年700億立方メートル以上のガスを消費している。
2019年には714億立方メートル、2020年には684億立方メートル(パンデミックの影響あり)、2021年には733億立方メートルであった。
そのうち、ロシアから購入したガスは約45%。昨年2021年のデータでは282億立方メートルがロシア産であった。

天然ガスのほぼ全てが輸入されており、世界の内部エネルギー消費の40%以上をカバーしている。イタリアの国産生産量は4%未満である。
ガスは発電所で電力を生産するためにも使用されており、イタリアに輸入されている天然ガスの3分の1以上がそのタスクに向けられているのである。
イタリアの電力の半分弱がガスで生産され、残りは再生可能エネルギーということになる。
5分の1は産業の活動に使用され、45%以上の大部分はいわゆる一般市民の家庭用である。イタリアでは、合計25.5世帯のうち1,750万世帯が暖房にガスを使用しているという。
2021年の合計733億立方メートルは、民間用で333億立方メートル、熱電発電用に259億立方メートル、工業用に141億立方メートルに分割された。

イタリアのディマイオ外相は、ロシアが部分的であってもガスパイプの蛇口を閉鎖することを決定した場合に備え、ガスとエネルギーの供給への代替ルートについて、いくつかの国(まずはアルジェリアとカタール)との交渉を開始したと発表した。原産地を差別化し、ロシアのガスをアルジェリア、アゼルバイジャンなどの他の国のガスに置き換え、より多くのLNG(液化天然ガス)を輸入することに取り組んでいる。年末にかけて国内生産のガスを増加させ、貯蔵の強化などすべての措置をイタリア政府は準備しているところである。

エコロジカル・トランジション大臣であるロベルト・シンゴラーニは、国営放送ライ3のアゴラエクストラの番組内で、

「私たちは新しいプラント、再ガス化、長期契約に取り組んでおり、インフラストラクチャを強化しています。そして合理的に24-30ヶ月で私たちはロシアの天然ガスに頼らず、完全に独立することができるはずです。効率を向上させることができる60%の3つの再ガス化装置があります。今年は最初の浮体式再ガス化プラントを設置し、その後12〜24か月以内に他のインフラストラクチャを構築します。すべての再生可能エネルギーを加速している場合でも、脱炭素化プロセスを50%保証することができます」

と国民に向け説明をした。

昨日、企業、市場当局を集めた組織で成り立っている"ガス緊急委員会"の会議がローマで開催された。
エコロジカル・トランジション大臣ロベルト・シンゴラーニは、
「ロシアからだけでなく、イタリアへのすべての供給が突然中断されたというまったくありそうもない仮説の場合でも、イタリアはガスの輸入では6週間、石油の輸入では90日間分を貯えており、完全な自給自足で賄える。いずれにせよ、ロシアの原油供給に取って代わることはそう難しくないように思われる。」と語った。

ウクライナからタルビジオ経由のロシアのガスがすべて失われたとしても、現在の埋蔵量の排出率で冬を越すことができる。ガスが不足した場合でも、石炭火力発電所を再活性化することは可能だ。イタリアは、実質的に電力生産不足なしで7月まではなんとか持ち堪えることができるというのが、ガス緊急委員会が出した結果であった。

ENI(イタリアに本拠を置く多国籍の石油・ガス企業)のシミュレーションによると、石炭火力発電所の再開と再生可能エネルギーの最大限の推進を余儀なくされる、ただし、停電のリスクは伴うだろうと、石炭火力発電所への復帰も視野に入れた発言をしている。
また、バンカ・ロスチャイルド副会長でエニの元最高経営責任者であるパオロ・スカローニ氏によると、「家庭での室内温度を下げる法令を作る必要がある」と言っている。
4月からは、電気代はは20%増加し、ガスは+ 2%増加するとエネルギーおよび環境分野の独立した研究会社が見積もっている。

現時点では、ロシアからの暗黙の脅威は背景にあるとはいえ、最大収入源である天然ガスを遮断するということはプーチンにとっては、終末論的なビジョンであって、唯一の最終武器である。
今のところは、まだ最終武器(手段)を使うには至ってはいない。

一番ダメージを受けるのはロシアである。現在の価格で年間2,000億ユーロ以上の収入。

ヨーロッパはロシアのガス輸出の80%以上を占める最初の顧客であり、既存の輸送インフラストラクチャの重要な役割を考えると、現実的にヨーロッパ向けの供給を全て中国に転用するには無理があり、それを実行するための十分なガスパイプラインなどない。


関連記事:【イタリア事情斜め読み】対ロシア制裁におけるイタリアが被るダメージ

| 西側欧州諸国の対ロシア経済制裁措置をぶち壊していく中国

権威主義体制のロシアと中国、二国間の経済的、政治的関係は常に非常に強固であり、ロシアがウクライナへの侵攻を開始した後に、両国の関係は非常に緊密なままであるし、さらに強化されているようである。

中国の習近平国家主席はウラジーミル・プーチンに西側の制裁に対するライフラインを提供し、彼らがモスクワの経済に与える可能性のある影響を大幅に軽減させている。
2月、ロシアに対する西側の制裁が迫る中、ロシアと中国は、ロシア極東から中国東北部に天然ガスを供給する30年間の合意に署名した。
ロシアのエネルギー大手であるガスプロムは、モンゴルを横断し、最大500億立方メートルのガスを中国に運ぶ可能性のあるSoyuzVostokガスパイプラインを建設する契約に署名したと伝えられている。

全体として、中国は2021年にロシアから790億ドル相当の商品を輸入し、ロシアから輸出される全輸出のうち中国が17%を占める。中国は、携帯電話、コンピューター、通信機器などのハイテク製品をロシアから購入している。ロシアにとっては最大の輸入サプライヤーが中国なのである。
玩具、繊維、アパレルなどのより伝統的な産業でもチャートのトップに立っている。
最新のデータによると、二国間貿易は昨年より35.9%増加し、過去最高の1,469億ドルに達したという。
西側欧米諸国によるロシアに課した制裁や禁輸措置がどれだけ厳しくても、中国がこれを機にエネルギー、ガス、石油、原材料、穀物、ハイテク製品や医薬品に至るまでを購入し、ロシアと強硬なパートナーシップをさらに拡大し深めているというのが問題である。
中国がロシアを全面バックアップし、ロシア経済をサポートしているというのが現実である。

| 小麦とトウモロコシ

敵対的のリストにイタリアが含またということは、農産物市場にも甚大な影響を与える可能性があることを意味している。
まず、ロシアとウクライナを合わた農産物市場を見てみると、例えば、トウモロコシは世界貿易の約5分の1を占めており、小麦は全世界の供給量の約3分の1を占めている。その輸出の減少は農業コストの上昇に連動し、食物連鎖全体にも影響を与える可能性もあると考えらる。

ロシアからイタリアに輸入されている軟質小麦は6%を占めているのだが、食品の安全性という観点からは危うさもある。
なのでイタリアは、イタリアの軟質小麦の輸入の30%をハンガリーから取り寄せている。トウモロコシの輸入に関しては32%だ。(ハンガリーからの小麦粉はパンや派生物に使用されるが、パスタにはほとんど使用されていない)
そのハンガリーが世界の他地域への輸出を阻止したという。

2月、中国がロシアからの穀物輸入に対する税関の制限を緩和した。

中国はこれまでは、小麦やその他の作物に深刻な収穫量の損失をもたらす可能性のある矮性菌の存在に対する懸念から以前はロシアからの穀物の輸入には制限をかけていたそうだ。
税関の制限を緩和するというこの決定は、小麦の価格が超高水準に達したときに、中国は供給量を充分に確保することができ、価格を釣り上げ高騰させることができる。案の定、3月7日、穀物価格は1トンあたり430ユーロに達した。
西側の制裁をうまく利用した中国、この利己的な中国のロシア支援の真の目論見は、中国が株式保有の範囲内で支配権を握ることによって大きな影響力を帯び出し、大規模なグループ構造の中にロシアを吸収して支配下に据えることだろうと思えてならない。


| ロシアからのサイバー攻撃

3月に入り、サイバーセキュリティエージェンシーは、企業や政府機関にサイバー攻撃の可能性について警告している。現時点ではセーフティネットは機能しているが、特にインフラストラクチャとヘルスネットワークに関しては、アラートは非常に高いままであるという。

| ロシアから撤退し帰国するイタリア人

3月6日、在ロシア・イタリア大使館は、ウェブサイトに「存在が必須ではない国にいるすべての同胞は、ロシア連邦からの移動またはイタリアへの帰国を迅速にすることを強くお勧めします。」との内容を掲載した。

" ビザ発行に関する問題"

イタリアにとって差し迫ったリスクが何かというと、モスクワ当局が外国人へのビザを拒否するだろうと予測されている。
いずれにせよ、ロシアは既に発行されたビザを一時停止することを決定するだろうとの見込み。なので、イタリア政府は、ロシアからイタリアへの帰国を強く奨している。

| ロシア在住のイタリア人が困っている『外貨の国境を越えた送金を停止の措置』

ロシアは、ロシア連邦の居住者(法人を含む)が連邦外の口座に外貨を送金することを禁止した。
また、外国のプロバイダー(Paypalなど)が提供する電子決済手段を使用して銀行口座を開設することなく、居住者自身が送金できるようにすることも禁止した。
居住者がローン契約に基づいて非居住者に外貨を譲渡することも禁止。
最後に、月額1,000万ルーブルを超える外貨で債務を返済するために、住民が実行しなければならない特定の手続きを制定した。

今のうちに、ロシアに在住している人は避難した方が賢明である。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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