最新記事
FRB

中央銀行への「政治介入」再び...FRB理事解任が突きつける「制度の限界」

2025年8月27日(水)15時50分
FRBのリサ・クック理事

8月26日、ワイオミング州で開かれた今年の経済シンポジウム・ジャクソンホール会合。カリフォルニア大学バークレー校のエミ・ナカムラ教授は、2021年のインフレ高進局面での米連邦準備理事会(FRB)の対応について、この事例がFRBの信認に価値があり、信認が損なわれれば大きなリスクであることを示唆すると論文で指摘した。写真は2023年6月、米上院委員会の指名公聴会で発言するリサ・クック氏(2025年 ロイター/Jonathan Ernst)

ワイオミング州で開かれた今年の経済シンポジウム・ジャクソンホール会合。カリフォルニア大学バークレー校のエミ・ナカムラ教授は、2021年のインフレ高進局面での米連邦準備理事会(FRB)の対応について、この事例がFRBの信認に価値があり、信認が損なわれれば大きなリスクであることを示唆すると論文で指摘した。トランプ大統領が25日、米国史上で初めてFRBのリサ・クック理事の解任を表明したことで、こうしたリスクはもはや机上の話でなくなった。

21年のインフレ高進に対しFRBの引き締め対応は遅れたと指摘されている。しかし当時のインフレ期待指標は物価が落ち着くとの見方を示していた。また米国債市場は利上げを開始するかなり前からそれを織り込み始めたため、引き締めは比較的容易に、コストをかけずにすんだ。


 

ナカムラ氏は「FRBが7―8%のインフレ率を予測しても長期的なインフレ期待をほぼ完全に安定させ続けたのがどれだけ驚異的なことか忘れてはならない。これは極めて強力な信認が必要だ」と述べた。そのような信認は中央銀行の独立性や長年の強固な実績に依存し構築に長い時間を要するが崩れるのは簡単だと指摘した。

トランプ氏のクック氏解任表明について、政策決定や市場の織り込みにどの程度の時間を要するかは分からないが、FRBの信認低下の種がまかれてしまったと識者は指摘する。

カリフォルニア大学バークレー校の経済学名誉教授で国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミストのモーリス・オブストフェルド氏は「FRBの独立機関としての有効性、物価安定の使命を達成するための基盤に対する大規模な攻撃だ」と指摘し、「FRBがインフレ期待を不安定化させないで雇用を最大化させるというもう1つの重要な責務を達成するのも難しくなるだろう」と述べた。「市場は金融政策が政治的な動機で決定されると考え、FRBが巨額の財政赤字の資金手当てなど政権のその他の目標により重きを置くとみなされるだろう」と語った。

食と健康
「60代でも働き盛り」 社員の健康に資する常備型社食サービス、利用拡大を支えるのは「シニア世代の活躍」
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英生産者物価上昇率、6月は2年ぶりの高水準

ワールド

ロシア貿易相手国への制裁、米国民の6割超が賛成=世

ワールド

韓国の造船世界最大手、米国需要を取り込むため関連会

ワールド

中国、サウジに通商分野の連携強化要請
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 7
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に…
  • 10
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中