最新記事
中国

TikTokやXでも拡散、テレビ局アカウントも...軍事演習の裏で進む中国「ハイブリッド戦」とは何か

2024年5月27日(月)19時40分
李紫楓(ジャーナリスト)
台湾周辺での中国の軍事演習

海上軍事演習のニュースを伝える中国中央電視台のテレビ画面(5月25日) CCTV/YOUTUBE

<台湾の新総統が就任した直後、2日間の軍事演習を実施した中国軍。しかし、軍事的な動きを見ているだけでは中国側の意図は分からない>

台湾の頼清徳(ライ・チントー)総統が5月20日に就任した直後、中国は予告なしに台湾周辺で2日間の軍事演習を開始。同時に主要SNSで世論誘導のための組織的な工作を展開している。

中国当局は、この挑発的作戦を台湾の「分離主義的行動」に対する「懲罰」と主張。軍事衝突手前のぎりぎりのラインで台湾側の主権、支配権、法執行権に揺さぶりをかけた。

中国当局の偽情報・世論工作は、いわゆる「ハイブリッド戦」戦略の一部だ。法的・認知的闘争に加え、「グレーゾーン(武力行使には至らない威嚇)」戦術を組み入れている。狙いは台湾海峡の現状に挑戦し、容認できない行動の定義を書き換えることだ。

中国軍の東部戦区司令部は、頼の就任演説を「台湾独立」勢力の「分離主義的行動」と呼び、軍事演習はそれに対する「重大な警告」と「効果的な懲罰」と主張した。

中国当局は国営または政府系関連機関のアカウントを使い、微信、新浪微博、TikTok、フェイスブック、X(旧ツイッター)といった中国と欧米の両方のSNSでこの主張を拡散させた。

例えば5月22日、東部戦区司令部は「台湾独立を狙う剣」と題する動画を微博に公開。中国軍の軍事力を自画自賛し、自分たちの武器を「海を越える殺戮の道具」と表現した。

「今日海峡」「台海時刻」という2つのアカウントは、微博より台湾人ユーザーが多いフェイスブックとTikTokに同じ動画を投稿。前者は福建海峡テレビのフェイスブックページ、後者は福建省政府直轄の福建省ラジオ・テレビ局が管理するTikTokアカウントだ。

注目すべきは、どちらのアカウントにも政府系機関であることを示す情報がない点だ。そのため、まるで独立系メディアであるかのような錯覚を与え、視聴者をミスリードする恐れがある。

軍事演習の動画の大半は微博や微信といった中国のSNSで最初に公開されたが、すぐに欧米系のSNSにも動画が拡散された。おそらく中国の狙いは、台湾人に恐怖と不安を与え、新政権への支持を低下させることだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マクロン氏、プーチン氏のイスラエル・イラン危機仲介

ワールド

原油先物続伸し3%超上昇、イラン・イスラエルの攻撃

ビジネス

ECB、2%のインフレ目標は達成可能─ラガルド総裁

ワールド

トランプ氏、イラン・イスラエル和平を楽観視 プーチ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中