最新記事
フランス

デモ参加者を「害虫」扱い...なぜフランスの警官は、ほかの欧州諸国に比べて乱暴で高圧的なのか?

Why France Is Burning

2023年7月11日(火)16時30分
ミシェル・バルベロ(ジャーナリスト)
10代の若者が警官に射殺され、各地で暴動が起きた

10代の若者が警官に射殺され、各地で暴動が起きた(6月30日) JUAN MEDINAーREUTERS

<荒くれ者ぞろいの警官が貧困地区の移民を射殺、「差別はない」との建前と現実の大きな矛盾>

公式には人種差別の存在を否定しているフランスでアラブ系の少年が白人警官に殺され、怒りの暴動が全国各地で起きた。この国の治安当局に、暴力と人種差別の体質が染み込んでいる証拠だ。

【動画】フランス各地での抗議デモ(5日目夜)

そもそも大都市周辺の最貧地区では、以前から黒人やアラブ系の住民と警官隊が一触即発の状態にあった。しかもフランスの警官は、ほかの欧州諸国に比べて乱暴で高圧的なことで知られる。

去る6月27日、アルジェリア人とモロッコ人の血を引く17歳の少年がパリ西郊外のナンテールで、交通検問中の警官に射殺された。現場に居合わせた市民が一部始終をスマホで撮影し、ネットに上げた。その動画が瞬時に拡散し、暴動に火を付けた。2020年の米ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドが警官に首を圧迫され、窒息死したときと同じだ。

あっという間だった。暴動はバンリュー(都会の外郭を成す環状線の外側にある地区)から都心のスラム街にも広がった。街頭にはバリケードができ、車や公共施設に火が放たれ、商店が略奪された。

フランスがこんな騒乱状態に陥るのは05年以来のことだ。あのときは、パリ郊外で警官に追われた若者3人が逃げ切れずに事故で2人が死亡、1人が重傷に。被害者と同じマイノリティーたちの怒りが爆発し、暴動は3週間も続いた。

フランスの警察には「人種差別と残虐性という二重の問題」があるのに、「歴代の政権はどちらからも目を背けてきた」と指摘するのは、グルノーブル政治学院の社会学者セバスチャン・ロシェだ。

似たような事件の映像が出回った例は過去にもあるが、「ここまでひどいのは初めて」だと言ったのは、リール大学教授のエリック・マルリエール。それは「フロイドの事件を想起させる残酷な映像」で、だからこそ激しい抗議が起きたとみる。

フランスでは今年、エマニュエル・マクロン大統領の進める強引な年金制度改革に怒った人々の抗議活動が何カ月も続いていた。今度の事件は、そうした怒りの炎に油を注ぐ格好になった。ブリュッセルでのEU首脳会議に出席していた大統領は、慌ててパリに戻った。予定していたドイツ訪問も、取りあえず延期するしかなかった。

フランスの警察は昔から高圧的で、特に異民族には厳しかった。1961年にはパリの警視総監モーリス・パポンの指揮下にある警官隊が、アルジェリアの独立を求めるデモ隊に襲いかかり、何十人(何百人という説もある)もの市民を虐殺している。

ビジネス
栄養価の高い「どじょう」を休耕田で養殖し、来たるべき日本の食糧危機に立ち向かう
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中