最新記事
飛行機

「見捨てられてなどいない」世界最大の輸送機ムリーヤの復元作業が始まる ウクライナ

2023年4月11日(火)18時30分
青葉やまと
ムリーヤ

ロシア軍による爆撃で大破し、無残な姿をさらすムリーヤ(2022年8月10日、キーウ州ホストーメリ) Viacheslav Ratynskyi-REUTERS

<復元に向け、すでにエンジン3発など多くのパーツが損傷機から回収された。資金難で中断した幻の2機目のムリーヤも、部品提供に貢献する可能性があるという>

ロシアの侵攻で昨年大破した世界最大の輸送機「ムリーヤ」について、破損した部品のうち使えるものをひとつひとつ回収して組み立て、復元する作業が始まった。人道的な救援活動より優先度は低いが、巨大な航空機を復元することで、被災地域の復興に希望を与える意味合いが込められている。

【動画】パンデミック中に医薬品を輸送して世界を救ったムリーヤ

アントノフAn-225「ムリーヤ」は昨年2月の侵攻からわずか数日後、ロシア軍による爆撃によって起きた火災に呑まれて破壊された。作業員たちは現在、すすにまみれた部品を火災跡から取り出し、回収を進めている。現在は部品の回収と設計が進んでおり、本格的な再建作業は終戦以後になる見込みだ。

エンジンや尾翼など続々回収

米CNNは4月7日、復旧作業の詳細を報じた。記事によると、エンジニアや関連する技術者たちがアントノフ国際空港で残骸を探索し、使える見込みのある部品の取り外し作業を進めている模様だ。

アントノフ社の設計技師であるヴァレリイ・コスティウク氏はCNNに対し、焼け残っている片翼をそのまま取り外し、再建を試みる可能性があるとの見方を示している。エンジンは新型と換装し、電子機器も近代化される計画だという。

An-225は世界で1機の巨大貨物機だったが、以前は2機目の建造が進められていた。その後、資金不足で1990年代に計画が破棄されている。CNNは、途中まで建造が進んでいた2機目を基礎として、現行機から回収されたパーツを補助的に使用する可能性があるとしている。

ニューヨーク・タイムズ紙は、すでに6発のエンジンのうち3発が回収されたほか、フラップ、一部の油圧システム、ギア(降着装置)、燃料ポンプの一部、そして尾翼が収集されたと報じている。

また、同紙によるとムリーヤは、ウクライナ製の貨物機であるアントノフAn-124「ルスラーン」と部品と共有している。このほかまったく同一ではないものの、同機の部品を原型としたカスタムメイドのパーツが採用されているという。不足するパーツの一部については、ルスラーン用の保守パーツからの調達も検討されるとみられる。

大型輸送機の大破が与えた世界への衝撃

ムリーヤは世界最大の輸送機として愛されており、その破壊はウクライナ国外にも衝撃を与えた。2011年の東日本大震災時には支援物資などを乗せ、フランスから日本の成田空港へ飛来している。パンデミック中には医薬品を載せ、世界の空港を結んだ。

同機は1980年代にウクライナの首都キーウで建造され、ソ連からの独立後に大規模なオーバーホール(分解・整備・再組み立て)が施されている。エンジン6発とタイヤ32本で、640トンの最大離陸重量をサポートする。

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

南アCPI、11月は前年比+3.5%に鈍化 来年の

ワールド

トランプ氏、国民向け演説で実績強調 支持率低迷の中

ワールド

ドイツ予算委、500億ユーロ超の防衛契約承認 過去

ビジネス

「空飛ぶタクシー」の米ジョビ―、生産能力倍増へ 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中