最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナで進む「対ロ協力者」摘発──1年で数千人が拘束、深く根付くロシアの影響

UKRAINE

2023年1月23日(月)12時30分
ステファニー・グリンスキ
協力者

ハルキウ(ハリコフ)で協力者とみられる男を拘束するSBU要員 RICARDO MORAESーREUTERS

<ロシアの工作員はあらゆる場所にいる>

ロシアのウクライナ侵攻は、当初からウクライナ側の情報提供者、裏切り者、対ロ協力者に支えられてきた。彼らは攻撃目標の位置特定に協力し、ウクライナ政府内部に潜入した。この1年間で少なくとも数千人が拘束され、数百件の裁判が進行中だ。

「ロシアの工作員はあらゆる場所にいる。議員や裁判官、聖職者、もちろん一般市民の中にも紛れ込んでいる」と、首都キーウ(キエフ)に拠点を置く非営利団体チェスノのイリーナ・フェドリフは言う。同団体は侵攻開始後、協力者1000人以上の正体を暴露してきた。そのうち47%は政治家で27%が裁判官だ。「警察、裁判所、政府。全てに協力者が入り込んでいる。多くは拘束されたが、裁判になるケースは少ない」

1922年から91年まで、ウクライナは70年近くソ連の一部だった。多くの地域でロシアの影響が深く根付いている。ロシア政府に言わせれば、今もウクライナは歴史的にロシアの一部だ。

東部の住民は伝統的にロシア語話者だった(今では多くがウクライナ語に切り替えた)。ロシア政府の宣伝を流すテレビ局も多くの地域で視聴可能だ。ゼレンスキー大統領のコメディアン時代の人気テレビ番組『国民の僕しもべ』でも、登場人物の大半がロシア語を話していた。

しかし、親ロ政権を崩壊させた2013~14年のマイダン革命以降、ウクライナ東部とロシアの歴史的結び付きを再検討する動きが加速した。それを決定付けたのが昨年2月の侵攻だ。ウクライナでは近年、10以上の親ロシア派政党が活動を禁止された。

「モグラや裏切り者の一掃」が必要だと、ウクライナ保安庁(SBU)のアルテム・デクティアレンコ報道官は取り締まりの重要性を強調する。

SBUは昨年2月以降、約2500件の犯罪捜査を進め、600人の工作員やスパイを拘束。4500件以上の政府機関に対する工作やサイバー攻撃を阻止した。ドネツク州の重要インフラ施設の情報をロシア側に提供し、ウクライナのロケット発射台の位置を特定しようとした人物は先日、禁錮12年半の判決を受けた。

キーウでは、ウクライナ商工会議所の理事長と内閣官房の部門長が拘束された。両者はウクライナの防衛能力に関する情報と警察官の個人データをロシアに流していた。

ウクライナでは一般市民の多くが、ロシアのプロパガンダをSNSで発信していた隣人やスパイ容疑で告発された同僚など、対ロ協力者の存在を身近で感じた経験がある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年

ワールド

ハセット氏、FRBの独立性強調 「大統領に近い」批

ビジネス

米企業在庫9月は0.2%増、予想を小幅上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中