最新記事

ウクライナ

悪夢の「ブチャ虐殺」生存者の証言...住宅街で起きた処刑、性暴力、拉致の一部始終

Just a “Tip of the Iceberg”

2022年4月13日(水)17時14分
エイミー・マッキノン(フォーリン・ポリシー誌記者)、メアリー・ヤン(フォーリン・ポリシー誌記者)

また拉致の情報はザポリージャやヘルソン、マリウポリなど、ロシア軍に包囲された東部や南部の地域に集中しているとモスクビチョバは言う。地元住民の激しい抵抗が続いている地域ばかりだ。

ZMINA代表のピチョンチックに言わせれば、ロシア軍はこれらの地域でジャーナリストや町長などの有力者を標的にして「住民を怖がらせ」、服従させようとしている。またZMINAの把握している情報は一部にすぎず、行方不明者の実数は数百人に上る可能性が高いとも言う。

拉致された人々は動画に撮られ、それがロシア国内向けのプロパガンダや、当局者やメディア関係者の家族への脅迫材料に使われることもある。3月にはメリトポルで、地元ニュースサイトの編集長の父親(75)がロシア軍に拉致された。父親は、編集長が同サイトの運営権をロシア側に渡すと同意したことで、ようやく解放された。

対ロシア追加制裁の議論が活発化

ウクライナ政府や西側の同盟諸国、国際機関などは戦争犯罪の疑いありとして捜査の準備を進め、証拠の収集と保存を行っている。

イギリスは戦争犯罪に詳しい国際刑事裁判所の元判事ハワード・モリソンを、ウクライナのベネディクトワ検事総長の独立顧問に起用した。リトアニアとポーランドの検事総長も先週、戦争犯罪の証拠集めに協力すると発表している。

目を覆いたくなるブチャの惨状を映像や写真で見て、国際社会は一斉に非難の声を上げた。「ヨーロッパで民間人に対し、このような残虐行為が行われるのは何十年ぶりかのことだ」と言ったのはNATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長だ。

ロシアを外交的・経済的に一段と孤立させる方策についての議論も活発化している。

ドイツのクリスティーネ・ランブレヒト国防相は3日、EUとしてロシア産天然ガスの輸入禁止を議論すべきだと述べた。ロシアからの輸入はEU域内のガス需要の約40%を占めている。ドイツはこれまで、(自国だけでなく)欧州経済全体への影響を懸念して禁輸に抵抗していたから、これは大きな方針転換と言える。またアメリカのジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官も、ロシアに対する追加的な制裁措置をほのめかしている。

「国連はまた会議を開いて、ロシアのプーチンに激しい怒りの電子メールでも送り付けるのでしょう」と、前出のウクライナ国会議員ルディクは言った。そもそも国連やNATOは、こうした蛮行を未然に防ぐために設立されたはず。なのに「防げなかった。よく聞いて。あなた方は、あなた方の使命を果たせなかったのです」。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中