最新記事

米ロ関係

サイバー攻撃は従来と別次元のリスクに...核戦争の引き金を引く可能性は十分ある

FROM CYBER TO REAL WAR

2021年7月16日(金)11時53分
トム・オコナー(本誌外交担当)、ナビード・ジャマリ(本誌記者)、フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)
米バイデン大統領とロシアのプーチン大統領

米ロ首脳会談でバイデンはプーチンに事実上の「レッドライン通告」をした SPUTNIK PHOTO AGENCY-REUTERS

<ロシア政府とつながりのあるハッカー集団によるサイバー攻撃が激化し、このまま行けば開戦の可能性も>

米政府機関などを標的にした空前の規模のサイバー攻撃が発覚したのは、2020年12月のこと。多くの政府機関や企業で利用されているソーラーウインズ社のネットワーク管理ソフトが狙われたのだ。この「ソーラーウインズ攻撃」のハッカーの糸を引いていたのは、ロシアの情報機関「SVR(対外情報庁)」だと考えられている。

ジョー・バイデン米大統領はこの5月、外国勢力によるサイバー攻撃に対する防衛体制を強化する大統領令に署名した。すると、それと時を同じくして、アメリカで活動する企業を狙った大掛かりなランサムウエア(身代金要求ウイルス)攻撃が相次いで2件発生した。

東海岸に1日1億ガロンの燃料(ガソリンなど)を供給している石油パイプライン最大手コロニアル・パイプラインと、世界最大手の食肉企業JBS(本社はブラジル)の米国内の食肉加工処理場全てが稼働停止に追い込まれた。この2つの事件は、インターネットを基盤にした経済の脆弱性を浮き彫りにした。

ほとんどのアメリカ人は、サイバー攻撃といっても短期間の停電やネット接続の遮断程度のもので、アメリカ側も同レベルの報復で応じるのだろうと思っているらしい。

一線を越えれば現実世界での報復に

しかし、本誌が話を聞いた専門家たちによれば、実態は違う。ロシアとつながりのあるハッカーたちは、もっと重大なサイバー攻撃を仕掛けていて、アメリカにとっての「レッドライン(越えてはならない一線)」に近づいているという。外国のハッカーがその「一線」を踏み越えれば、アメリカは報復のために、現実世界で軍事行動に踏み切らざるを得なくなると、専門家たちは語る。

旧ソ連圏に詳しい安全保障専門家たちは、バイデンが明確な警告を発するべきだと主張する。「ウラジーミル・プーチン(ロシア大統領)にリスクをきっぱり伝えなくてはならない。攻撃された場合は引き下がらないと言い渡す必要がある」と、オバマ政権で国防次官補代理(ロシアなどを担当)を務めたイブリン・ファーカスは言う。「サイバー版のパールハーバー攻撃がどのような結果を招くかを決めるのは、アメリカであってロシアではない」

ロシアやハッキング集団がその点を理解しているかは疑わしい。米ロ間で武力衝突が起きれば、双方が壊滅的な打撃を被る。そのため、20世紀後半の冷戦期には、互いが越えてはならない一線について合意が形成されていた。サイバー戦争に関しては、まだそうした合意が存在しない。そのような状況では、ごく小さな火種が大火事に発展する危険がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JX金属、通期予想を上方修正、米関税の影響縮小や銅

ワールド

イスラエル、ガザへの段階的な物資搬入を許可へ 地元

ビジネス

リクルートHD、4-6月期営業益20%増 通期予想

ビジネス

午後3時のドルは147円前半で上値重い、一時2週間
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をディズニーが公開へ? 50周年でオリジナル版「復活」の可能性
  • 4
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 5
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「原子力事…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 8
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 9
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 10
    「15対0の完敗」──EUは安全保障を米国に依存する日本…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 10
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 5
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 6
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中