最新記事

北朝鮮

北朝鮮のタカ派外相、姿見えず──バイデン次期政権睨んで交代か

North Korea Negotiator Disappears As Kim Prepares for Biden Challenge

2020年12月21日(月)17時31分
デービッド・ブレナン

8月を最後に公の場で目撃されていない李善権外相(写真は2018年1月、韓国代表団との会合での様子)Korea Pool -REUTERS

<秋以降、対米強硬派の李善権外相が公の場に姿見せていない。話し合い路線へ転換の兆し?>

対米強硬派として知られる北朝鮮の李善権(リ・ソングォン)外相が公の場に姿を見せなくなって久しい。アメリカの政権交代を前に、朝鮮労働党委員長の金正恩(キム・ジョンウン)はもっと交渉手腕に優れた人物を新たな外相に任命する計画だとも伝えられている。

韓国の朝鮮日報によれば、李外相は8月を最後に公の場で目撃されていない。また、韓国の聯合通信は、これが今後の人事と関係があるのか事態を「注視している」という韓国政府高官の話を伝えている。

李は1月に外相に就任。韓国やアメリカとの関係について保守的な考えを持つ強硬派と言われていた。ちなみに前任者の李容浩(リ・ヨンホ)は英語に堪能なベテラン外交官で長年、アメリカなどとの交渉に携わってきた。

1月の外相交代は、2018年にシンガポールで開かれた米朝首脳会談で結ばれた合意が一向に実現されない中で、北朝鮮政府の対外政策が非協調路線にシフトするシグナルだと受けられていた。

だがトランプ政権が終わりを迎える中、北朝鮮政府(そして他のアメリカとライバル関係にある国々の政府も)の視線は、ジョー・バイデン次期大統領とその陣営が朝鮮半島の核問題や制裁というやっかいな課題にどう取り組むのかに向けられている。

韓国統一省は聯合通信に対し「まだ公式声明は出ていないが、関連する状況を注視していく」との立場を明らかにしている。一方で同省は、李外相は「まだその地位にいて、活動を続けている」との見方も示した。

李は元陸軍大佐で、外相になる前は祖国平和統一委員会の委員長を務めていた。朝鮮日報によれば彼が最後に公の場で目撃されたのは、8月19日の朝鮮労働党中央委員会総会においてだったという。

狂犬呼ばわりは過去の話に?

だが李のタカ派的なアプローチは、バイデンから譲歩を引き出す障害になるかも知れない。バイデンは北朝鮮の非核化に繰り返し、意欲を示している(もっとも一部の専門家からは、北朝鮮がすでに核兵器を保有している以上、このやり方は意味をなさないとの声も上がっている)。

統一省の金炯錫(キム・ヒョンソク)元次官は朝鮮日報に対し、李の外相就任は「アメリカ政府とのさらなる交渉に関心を寄せるのではなく、強硬な姿勢を示すのが目的だった。今度は(北の)政権は彼をアメリカと話の出来る人物に取り替えようとしている」

バイデンは北朝鮮問題には、トランプよりも厳しい姿勢で臨む考えを示している。選挙運動中、バイデンは金のことを「悪党」と呼び、「独裁者におもねる時代はもう終わりだ」とに述べていた。

バイデンが副大統領を務めたオバマ政権は北朝鮮問題では「戦略的忍耐」というアプローチを取っていた。つまり制裁によって北朝鮮がアメリカの要求に応じざるを得なくなるのを待ったのだ。

今後、北朝鮮の外交官らはこれまでの強硬姿勢の尻拭いに追われることだろう。これまで北朝鮮はバイデンをばかにしたような態度を取ってきた。国営の朝鮮中央通信(KCNA)は昨年、バイデンのことを「狂犬病にかかった犬」で棒で叩き殺すべきだと評していた。

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、2.7万件減の19.1万件 3

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減との報

ワールド

トランプ氏、USMCA離脱を来年決定も─USTR代

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 9
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 10
    白血病細胞だけを狙い撃ち、殺傷力は2万倍...常識破…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中