最新記事

中台関係

中国が台湾総統選に干渉──元スパイの告白で「メディア操作」疑惑も浮上

2019年12月2日(月)17時50分
ニック・アスピンウォール

中国共産党は国民党の韓國瑜(中央)を支援? CHEN LIJIE-VISUAL CHINA GROUP/GETTY IMAGES

<オーストラリアに亡命を求め、中国の工作活動を暴露した中国人男性。台湾政界も揺れ、外国勢力による浸透工作をめぐって与野党対立が激化している>

来年1月の総統選を目前にして、台湾政界が「中国の元スパイ」を名乗る男の証言で揺れている。

その人物は、オーストラリアで亡命を求めている王立強(ワン・リーチアン)という中国人男性。地元メディアによると、王は中国のスパイ活動に関与していたことを告白し、台湾や香港、オーストラリアでの中国の工作活動を暴露した。

台湾当局は11月24日、台湾を訪れていた中国系香港企業の幹部夫妻を事情聴取し、その後、2人の出国を禁止する措置を取った。夫妻が幹部を務める企業「中国創新投資」は、中国の浸透工作の隠れみのになっていると、王に名指しされていた(夫妻は否定している)。

王の告発によれば、中国は台湾や香港の政界やメディア、大学に大規模な浸透工作を仕掛けていたとされる。台湾の総統選で現職の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統に挑む野党・国民党の韓國瑜(ハン・クオユィ)候補の当選を後押しすることも工作活動の一部だったという。

先頃、ロイター通信の取材に応じた台湾の外交・安全保障当局者3人は、王が本当にスパイだったかは疑わしいとしつつも、告発の内容そのものは嘘と決め付けていない。王の主張に関して調査を進めていると、総統府も声明文で発表している。

一方、中国政府は王の主張を全面的に否定。韓は、もし中国共産党から金を受け取っていたら立候補を取りやめると表明した。

王によれば、宗教団体や草の根団体などに加えて、台湾のメディアも中国による浸透工作の標的になっている。中国政府に都合がいいように、台湾の世論を誘導することが目的だという。

王の証言をきっかけに、一部のメディアに疑惑の目が向けられている。大手企業グループ、旺旺集団傘下のメディアは既に、韓についての報道量があまりに多いことなどを理由に、国家通信放送委員会(NCC)から罰金を科されている。

この7月には、英フィナンシャル・タイムズ紙が旺旺集団に関する疑惑を報じた。記事によれば、旺旺集団系のメディアは、中国政府で台湾問題を担当する台湾事務弁公室から頻繁に電話を受け、報道内容について指示されているとのことだった(旺旺側はこの報道を否定)。

「反浸透法」で与野党対立

NCCは11月27日、安全保障関連の部局と協力してこの問題を引き続き調査する意向を表明した。メディアが中国から資金を受け取っていたかが調査の焦点になる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

デンマーク、女性も徴兵対象に 安全保障懸念高まり防

ワールド

米上院可決の税制・歳出法案は再生エネに逆風、消費者

ワールド

HSBC、来年までの金価格予想引き上げ リスク増と

ビジネス

焦点:税収増も給付財源得られず、頼みは「土台増」 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中