最新記事

高速鉄道

日本の鉄道外交は脱・新幹線で勝ちに行け!

Thinking Small in Rail Diplomacy

2019年10月31日(木)18時30分
ウー・シャンスー(南洋理工大学、S・ラジャラトナム国際研究大学院研究員)

これまでは新幹線で中国の高速鉄道と張り合ってきた日本だが(写真は北京と香港を結ぶ高速鉄道) REUTERS

<東南アジアでの受注競争で中国に負けても既存路線を活用した高速化計画に勝機あり>

新幹線は主役の座を下りつつある──新幹線を中心に「鉄道外交」を展開してきた日本だが、最近の東南アジアでの受注状況を見ると、そんな感慨を抱かざるを得ない。

中国は10年ほど前から「一帯一路」戦略の下、高速鉄道(HSR)の輸出を開始。対抗すべく日本の安倍晋三政権は2012年以降、新幹線の売り込みに注力してきた。

2010年代以前に日本が新幹線技術を輸出したのはただ1度。2007年開通の台湾高速鉄道だけだ。新幹線は中国版HSRに比べコスト高だが、安全性や効率性など性能面で勝負できるとの見方もある。

日中のHSR受注競争は、東南アジアが主戦場だ。2010年代半ばには、タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポールで、日中が大規模プロジェクト獲得にしのぎを削った。

太っ腹の資金援助やホスト国に取り入る融通無碍(ゆうずうむげ)のアプローチ、それに低コストのおかげだろうが、中国は3件の事業を受注。対して日本の受注は1件にとどまった。

中国が受注したのはタイの首都バンコクとナコンラチャシマを結ぶ区間、着工が大幅に遅れたインドネシアの首都ジャカルタとバンドン間路線、そしてまだ計画段階にあるバンコク〜ラヨーン路線だ。

それに比べ日本が受注した唯一の案件──バンコクとチェンマイを結ぶHSR事業は、採算性が危ぶまれ、計画中止になりかねない雲行きだ。

ベトナムは日本への発注に傾いているが、南北を結ぶHSR建設には巨額の事業費がかかる。そのため2010年に議会で計画案が否決された経緯があり、今年再計画されたものの、コスト面などで日本の受注は難しそうだ。

地味な事業で実を取る

一方、既存路線を活用し、新技術を導入して高速化を図る事業において日本は東南アジアで成功している。例えば全長約730キロのジャカルタ〜スラバヤ路線。当初インドネシアはHSR建設を検討していたが、日本との交渉を通じ、既存の狭軌レール(幅1.067メートル)の改良で時速160キロに高速化する計画に切り替えた。これにより両都市間はこれまでの約半分の5時間半で結ばれる。

こうした事業では建設費が抑えられる上、新たに買収する土地も少なくて済む。HSRと比べると地味な事業だからメディアの注目を引かないが、途上国や新興国にはうってつけの計画だ。まず、工事が安上がりだからホスト国が「債務の罠」にはまりにくい。既存インフラの潜在的な能力をフルに活用できる点もいい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米国株式市場=小幅高、利下げ期待で ネトフリの買収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中