最新記事

再生機能

器官再生の仕組みの鍵は、ウーパールーパーが持っている

2019年10月30日(水)19時10分
松岡由希子

幼生の形態を保持したまま成熟する「ネオテニー(幼形成熟)」もその能力の要因か? Matthew Modoono/Northeastern University

<ウーパールーパーの再生能力の仕組みを解明し、ヒトの器官再生に応用しようとする研究がすすめられている......>

メキシコサンショウウオは「ウーパールーパー」の通称で知られる両生類の一種だ。幼生の形態を保持したまま成熟する「ネオテニー(幼形成熟)」がみとめられる生物のひとつでもある。

食料の乏しい環境では共食いすることもあるが、手足を食いちぎられても、数ヶ月のうちに、骨、筋肉、皮、神経がすべて備わった新しい手足が再生される。

このようなメキシコサンショウウオの高い再生能力の仕組みを解明し、ヒトの器官再生に応用しようとする研究がすすめられている。ヒトは再生能力が非常に限られており、成長が完了すると、新しい臓器を成長させるよう指示する遺伝子が休止する。

再生を促す合図の正体は......

米ノースイースタン大学のジェームズ・モナハン准教授の研究室では、「メキシコサンショウウオが損傷を受けると、傷口の周辺にある休止状態の細胞を活性化させ、損傷部の再生にあたるよう、何らかの合図がおくられるのではないか」との仮説のもと、その合図の正体を突き止めようと取り組んでいる。

cannibal-salamander.jpg

Matthew Modoono/Northeastern University

研究室ではこれまでに、手足や肺、心臓の再生に不可欠な分子「ニューレグリン-1」を特定した。「ニューレグリン-1」を除去すると再生が停止し、これを加えると再生反応が促されたという。

再生反応が促されるメキシコサンショウウオのメカニズムを解明するのはたやすいことではない。メキシコサンショウウオは巨大で複雑な遺伝情報(ゲノム)を有しているためだ。

「ネオテニー(幼形成熟)」であることもその一因か?

独マックス・プランク研究所らの研究チームは、2018年2月、メキシコサンショウウオの全遺伝情報の解読に成功。ヒトゲノムが約30億塩基対であるのに対して、メキシコサンショウウオのゲノムはその10倍以上の約320億塩基対にのぼることが明らかとなっている。

メキシコサンショウウオのほか、ヒトデやミミズ、カエルなどでも器官を再生する機能が備わっているが、メキシコサンショウウオは、年齢にかかわらず、元の器官と同等に丈夫な器官を再生できる点で他の生物とは異なる。

メキシコサンショウウオは自然に変態することがなく、幼生の形態を残したまま生殖を行うことができる「ネオテニー」であることもその一因ではないかとみられている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、12カ国への関税書簡を7日に送付 対象

ワールド

ハマス、米停戦案に「前向き」回答 直ちに協議の用意

ビジネス

焦点:航空機の納入遅れ、背景に高まる「特注高級シー

ワールド

米テキサス州の川氾濫、少なくとも13人死亡 キャン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 10
    1000万人以上が医療保険を失う...トランプの「大きく…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中