最新記事

リスク管理

カナダのトルドー、「人種差別」報道へどう向き合って反転攻勢かけたか

2019年10月9日(水)17時36分

世論調査によると、トルドー氏の支持率は暴露記事の直後に落ち込み、その後は持ち直しつつある。写真は遊説演説をするトルドー氏。9月19日、マニトバ州ウィニペグで撮影(2019年 ロイター/Shannon VanRaes)

9月18日。ハリファックス空港に向かうトルドー・カナダ首相の選対陣営に、米タイム誌の記者から暴露記事の知らせが入った。首相の再選を揺るがしかねない1枚の写真が数時間後、同誌の紙面を飾る。トルドー氏が29歳だった2001年、「アラビアンナイト」パーティーで顔を茶色く塗り、人種差別的な仮装をした写真だ。

ウィニペグ行きのため空港の駐機場に移動した陣営は急きょ、離陸を4時間遅らせ、その間の時間を機内にとどまったまま、記事への対応に費やすことにした。総選挙は1か月後だ。

機内では、側近らがトルドー氏のメディア向け謝罪メッセージを準備する傍ら、首相自身はツイッターでの擁護を期待し、少数民族系の自由党議員と閣僚に片っ端から電話をかけた。

トルドー氏は機内で、テレビ全国中継用の記者会見を開いて何度も謝罪した上、他にも顔をこげ茶色に塗った出来事があったことを認めた。

トルドー氏の側近や参謀6人への取材で、首相陣営がその後1週間、イメージ回復のためにいかに早急かつ慎重な戦略を取ったかが浮かび上がる。

戦略立案に関わった側近の一人は「逃げたり引き延ばしたりは禁物だ。首相を表に立たせ、国民に好きなだけ非難させる必要がある」と語った。

即座に謝罪する戦略が吉と出たかどうかはまだ分からない。世論調査によると、トルドー氏の支持率は暴露記事の直後に落ち込み、その後は持ち直しつつある。しかし複数の世論調査は、首相の自由党が少数派政権を樹立できれば良い方で、野党保守党に敗れる可能性も示している。

保守党の選対陣営のスポークスマンはロイターに「トルドー氏はこの4年間、聖人ぶって国民に社会問題や多様性の問題を説いてきた。偽善はごまかせない。国民は今、トルドー氏が看板を偽っていたことに気付いた」と批判した。

筋書きを棚上げ

関係筋らによると、トルドー氏陣営では3人の参謀が危機管理に当たり、首相府の幹部らと協力して次のような対応を練った。

オープンな態度で悔恨の意を示し、国民とメディアからの疑問に真摯に答える。通常の選挙戦をいったん休止する。10月21日の選挙に向け、なるべく早くこの問題を収束させる。

危機に直面した自由党陣営は、当初の筋書きを一時棚上げせざるを得なくなった。筋書きでは、保守党に人種差別主義者や反同性愛、反中絶を掲げる候補の駆け込み寺というレッテルを貼り、激しい選挙戦を展開するはずだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、温室効果ガス40年に90%削減を提案 クレジ

ビジネス

物価下振れリスク、ECBは支援的な政策スタンスを=

ビジネス

テスラ中国製EV販売、6月は前年比0.8%増 9カ

ビジネス

現在協議中、大統領の発言一つ一つにコメントしない=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中