最新記事

米経済

アメリカの景気が冷え込めば、米中貿易戦争もクールダウン?

COULD A US RECESSION END THE TRADE WAR?

2019年9月3日(火)16時20分
魏尚進(アジア開発銀行元チーフエコノミスト)

市場は逆イールドの発生が景気後退への突入を示唆すると戦々恐々だが LUCAS JACKSON-REUTERS

<市場は米経済の下振れを強く警戒しているが、米中激突が避けられる可能性もある>

長期金利が短期金利を下回る「逆イールド」が生じ、年内か来年には米経済が景気後退局面に突入する懸念が高まっている。とはいえ、逆説的ではあるが米経済が下向くことで中国との関係が改善し、貿易戦争が沈静化する可能性もある。

通常なら、米経済が不振に陥れば、中国など輸出依存度が高い国は痛手を受けるはずだ。ただ近年の景気後退では、アメリカは経済の回復を促すため常になく中国に融和的になっていた。

例えば2008年の金融危機後には、中国が世界経済を回復させる能力と意思を持つ唯一の頼みの綱に見えた。それも手伝って米中関係は改善。IMFなどの国際機関で中国が発言力を高めることを、アメリカが後押しする場面すらあった。

それに先立つ2001年4月には、南シナ海上空で米軍の偵察機と中国の戦闘機が空中衝突する「海南島事件」が起き、米中関係は冷え込んだ。この時も同年9月11日に米同時多発テロが起きて米経済の見通しが悪化すると、中国との関係は改善した。

歴代の米政権と違って、トランプ大統領率いる現政権は国際協調のDNAを持たないようだ。とはいえ、トランプが中国製品に懲罰関税をかけ始めたのは、2017年末に成立した大型減税の効果もあって米経済が過熱気味になった時期。貿易摩擦は米経済のみならず世界経済にも打撃を与えると多くのエコノミストが警告したが、米中対立は米経済の過熱を冷ます役目も果たしている。今後、景気がさらに悪化すれば、トランプの対中姿勢は軟化するかもしれない。

中国も貿易赤字に転落?

ただこのシナリオを妨げる要因が2つある。1つは現在の中国には大規模な景気刺激策を実行する能力がない可能性があること。中国政府が抱える債務残高は金融危機直後と比べ、GDP比で増えている。米経済、ひいては世界経済が悪化した場合に、拡張的な財政政策を取る余地は限られているだろう。

それでも中国政府が抱える借金は今でも大半の経済大国よりはるかに少なく、経済危機に際してはある程度の財政出動が可能だ。中国の中央銀行・中国人民銀行は流動性の注入に慎重だが、市中の銀行に比較的高い預金準備率を課しているから、緊急時には思い切った手が打てる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む

ビジネス

SOMPO、農業総合研究所にTOB 1株767円で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 9
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中