最新記事

香港

「こっちの水は甘いぞ!」――深センモデル地区再指定により香港懐柔

2019年8月20日(火)18時03分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

「港珠澳大橋」開通 香港・珠海・マカオを結ぶ  Bobby Yip-REUTERS

8月18日、中国は深センを社会主義先行モデル区に再指定した。その目的は「広東、香港、マカオ」を連結した粤港澳大湾区経済構想を通して一国二制度を完遂し、香港を懐柔することにある。そのために深センを利用。

中共中央・国務院の指示

8月9日、中共中央・国務院は「深センを中国の特色ある社会主義先行モデル区に指定することを支持することに関する意見」(以下、「意見」)を発布したと、8月18日の新華社電が伝えた。

中国では「~に関する若干の意見」という言い方を毛沢東が始めたために、最高権威の指令は、よく「~に関する(若干の)意見」という形で発布される。

「意見」の冒頭では、概ね以下のようなことが述べられている。

1.深センは改革開放を始める際の経済開発特区として大きな役割を果たしてきたが、今や最も活力と魅力あふれる国際化したイノベーション型都市に成長した。

2.(習近平思想で明記したように)現在、中国の特色ある社会主義国家は新時代に突入した。それに沿って深センが新時代の改革開放の旗を高く掲げることを支持し、深センを中国の特色ある社会主義のモデル地区に指定する。

3.それは必ずや「粤港澳(えつ・こう・おう)大湾区」の発展戦略実現に利し、「一国二制度」の事業発展の新実践を豊かなものに持っていくことだろう。

この「粤港澳大湾区」とは、「広東(粤)・香港(港)・マカオ(澳)(澳門)」を結びつける「グレーターベイエリア」のことで、この構想自身は2017年から提唱されていたが、2019年2月に中共中央・国務院が正式に発展綱要を発布し、本格的に動き始めた。当初は世界三大ベイエリアと呼ばれているニューヨーク・サンフランシスコ・東京に匹敵するベイエリアを創出する計画となっていた。

しかし今や世界三大ベイエリアと「同等」ではなく、世界一に輝く最先端都市としての発展と繁栄を目指すものとして新たな構想を発布したわけである。

こういった「意見」では、最も重要なものが最後に書いてあることが往々にしてある。今回もご多分に漏れず、主眼は香港を対象とした「粤港澳大湾区」にあることは明白だ。

香港の親中青年に語らせる

その証拠に中国共産党の機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」に「中国の特色ある社会主義先行モデル区深センを建設――専門家:香港の青年が国家の大局に融けこむ助けになる」という小見出しの記事を掲載している。

そこには以下のような記述がある。

――「意見」の発表は香港の各界で大きな反響を呼んでいる。香港は経済や民政に力を注ぎ、積極的に粤港澳大湾区建設に融けこみ、このチャンスを逃さないようにしなければならない。たとえば、香港菁英会社会民生研究会主任の高松傑氏は「このたびのこのような優遇措置は、われわれが大々的に融合することを可能にし、われわれ香港の青年が国家の大局に融けこむことを可能にする」と語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、6000件減の21.6万件 7

ワールド

中国、日本渡航に再警告 「侮辱や暴行で複数の負傷報

ワールド

米ロ高官のウ和平案協議の内容漏えいか、ロシア「交渉

ワールド

サルコジ元大統領の有罪確定、仏最高裁 選挙資金違法
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 5
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 10
    「世界の砂浜の半分」が今世紀末までに消える...ビー…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 6
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 7
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中