最新記事

エジプト

エジプトのモルシ前大統領、法廷で倒れ非業の死

Egypt's Former President Morsi Dies Defending Himself in Court, Reports Say

2019年6月18日(火)15時46分
トム・オコナー

エジプト・カイロ郊外の裁判所で死刑判決を受けたときのムルシ Asmaa Waguih- REUTERS

<「アラブの春」後にエジプト初の自由選挙で選出された前大統領が急死。出身母体のムスリム同胞団はこれは「殺人」だと反発を強めている>

ムハンマド・モルシ前大統領が死去した。複数のメディアが報じた。67歳だった。

モルシはイスラム主義組織「ムスリム同胞団」の出身。2011年に民主化運動「アラブの春」でホスニ・ムバラク大統領の長期政権が崩壊した翌年、エジプト初の民主的な選挙で大統領に選出された。だがその後、わずか1年で事実上の軍によるクーデターで失脚し、国家機密の漏洩などさまざまな罪に問われ訴追された。

エジプトの国営テレビや独立系の新聞アルマスリ・アルヨウムなど複数のメディアの報道によれば、モルシは6月17日、法廷で自らの容疑を否定する証言を行っている最中に突然倒れ、その後死亡した。原因は心臓発作だという。

モルシの後任には、クーデターを率いた当時の将軍、アブデル・ファタハ・アル・シシが2014年に大統領に選出された。2018年には、有力な対立候補のいない選挙で勝利してシシが再選を果たしている。

モルシの息子はフェイスブックに「神の御許で」父と再会するだろうと書き込み、父の死を認めた。

ムスリム同胞団への逆風

モルシは失脚後、シシ政権によって世間から遠ざけられ、複数の罪で裁判にかけられていた。罪状にはスパイ行為やデモ隊への武力行使、2011年の反体制デモの際の集団脱獄などが含まれている。2016年6月にはカタールのためにスパイ行為を行った罪で終身刑が下されたが、その後無効とされた。

17日の審理でモルシは、ムスリム同胞団と密接なつながりがあるパレスチナのイスラム原理主義組織「ハマス」と共謀した罪について、繰り返し否定したと報じられている。シシ政権はムスリム同胞団自体を非合法化している。

シシは大統領就任以降、ムスリム同胞団に批判的なサウジアラビアとの協調を深めてきた。2017年、エジプトはカタールがムスリム同胞団を支援しているとして、サウジアラビアやバーレーン、アラブ首長国連邦と共にカタールとの国交を断絶した。ムスリム同胞団については、ドナルド・トランプ米大統領もテロ組織指定を検討している。

ムスリム同胞団はかねてから、モルシの勾留環境について「拷問に等しい」と懸念を表明しており、BBCによれば、幹部の一人であるムハンマド・スワイダンはモルシの死について「意図的な殺人」だと非難した。

中東の衛星テレビ局アルジャジーラによれば、ムスリム同胞団を支持しているトルコでは、モルシ死去の報道を受けてレジェップ・タイップ・エルドアン大統領が「アラーよ、殉教者の魂を安らかに眠らせたまえ」と追悼した。2人は短命に終わったモルシ政権の任期中に関係の拡大を目指していたが、シシの大統領就任後、両国の関係は悪化している。

(翻訳:森美歩)

magSR190625issue-cover200.jpg
※6月25日号(6月18日発売)は「弾圧中国の限界」特集。ウイグルから香港、そして台湾へ――。強権政治を拡大し続ける共産党の落とし穴とは何か。香港デモと中国の限界に迫る。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中