最新記事

BOOKS

バブル期に「空前の好景気」の恩恵を受けた人はどれだけいた?

2017年6月6日(火)16時01分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<1975年生まれの著者による『東京バブルの正体』。読みはじめには強い違和感を覚えたが、最終章まで読んで「バブルの再興を」という著者の思いが理解できた>

タイトルからも察しがつくように、『東京バブルの正体』(昼間たかし著、マイクロマガジン社)のテーマになっているのは1986年末から1991年2月までのおよそ4年間、すなわちバブル期である。

とはいえ政治や経済について論じているわけではなく、著者の言葉を借りるなら、その主題は「バブル期に、その震源地たる東京で、何が起こっていたのか。人々はどんな気分で、何を考え、何をして暮らしていたか」についてだ。

最初に記しておくと、読みはじめと読了後で、ここまで印象が変わった書籍も珍しい。どう変わったのか、順序立てて書き進めていこう。最初に引用したいのは、「まえがき」内の以下の文章である。


 いわゆる「経済」は案外実感しづらい。最近でも、いくつか好景気といわれる時期はあったが、普段の生活においては、相変わらず景気が悪い、と感じていた人がほとんどだ。
 しかし、バブルは違った。全員とまではいかないが、かなりのパーセンテージの人が、空前の好景気を実感し、その恩恵にあずかったのである。(4ページ「まえがき」より)

そのころ20代中盤から終盤だった私は「バブル世代」ということになるが、だからこそ上記の文章には強い違和感があった。

あの時代が華やいでいたのは事実だが、そこに流れていたのは妙に不自然な、気味の悪い空気だったからだ。少なくとも個人的にはそう感じていたし、「かなりのパーセンテージの人が、空前の好景気を実感し、その恩恵にあずかった」ということは決してなかったと思う。

【参考記事】高度成長期って何? バブル世代も低成長時代しか知らない

そして、そこに確信を持てるからこそ、「この著者は、いったい何歳なんだろう?」という疑問が頭から離れなくなった。そこで調べてみたところ、1975年生まれだそうである。バブル期には小学校高学年から高校生くらいだったわけで、「バブルはこうだった」と断言するにはやや早い。

そのため「まえがき」の時点で戸惑いを隠せなくなってしまったのだが、本編に入る前に登場する但し書きに目を通した結果、さらに複雑な気分になってしまった。


 本書は、基本的に当時の流行をリードした雑誌を主な情報源としている。当時の文化は、都心部など特定の地域で生まれ、それを雑誌が拾い、大分遅れてテレビが取り上げるという流れで広がっていった。また、コマーシャリズムと結びついて作られた流行も、雑誌を起点に始められたものが非常に多い。雑誌は、文字通り流行の発信源であり、同時代の証言者なのだ。(7ページより)

それ以外にも"バブル期の主役"だった不動産業界やマスコミの人々、当時子どもだった人などにも話を聞いたというが、基本的には雑誌から得た情報によって書かれているということだ。

80年代後期、当時の勤め先だった青山の広告会社までの道のりを、私は毎朝、「チャラくて嫌な時代だなぁ」と思いながら歩いていた。だから違和感を拭えないのも、当然といえば当然なのである。

しかも本書は、その多くが自分で見てきたかのような断定口調で書かれているので、当然ながらそこには無理も生じる。あるいは、事実と異なる部分も出てくる。


「合コン」すなわち男女の出会いの場としての「合同コンパ」が発生したのは、1980年から1982年にかけての2年間のどこかである。(中略)
 しかし「合コン」は一朝一夕に誕生したものではない。その原初の姿とされるのが、「合ハイ」すなわち「合同ハイキング」である。「合コン」に対して健全な男女交際のイメージを受ける「合ハイ」は、80年代に入った時点ですでに過去のものとなっていた。(73~74ページより)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ大統領、金利据え置いたパウエルFRB議長を

ワールド

キーウ空爆で8人死亡、88人負傷 子どもの負傷一晩

ビジネス

再送関税妥結評価も見極め継続、日銀総裁「政策後手に

ワールド

ミャンマー、非常事態宣言解除 体制変更も軍政トップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中