最新記事

サウジアラビア

中東の盟主サウジアラビアが始めたアジア重視策

2017年5月9日(火)10時30分
オーウェン・ダニエルズ(アトランティック・カウンシル アシスタントディレクター)

3月に会談したサルマン国王と中国の習国家主席 REUTERS

<高齢のサルマン国王が投資と友好を求めてアジア歴訪――アメリカの動きもにらみつつ野心的な経済改革が本格始動した>

過去を引きずる紛争だらけの中東地域から足を洗い、希望と未来のアジアに通商と外交の焦点を定める。それが米オバマ前政権の掲げた「リバランス」政策だった。その成否については議論の分かれるところだが、どうやら今度は中東の盟主サウジアラビアが、同じアジア重視に舵を切ったらしい。

2月下旬から、同国のサルマン国王は3週間かけてマレーシア、インドネシア、ブルネイ、日本、そして中国を歴訪。一方で腹心のムハンマド・ビン・サルマン副皇太子はアメリカへ飛び、ドナルド・トランプ米大統領と初めて会談した。いずれも石油依存からの脱却を図る経済改革計画「ビジョン2030」の実現に向けて投資を募り、関係を強化することが目的だった。

今後、サウジが成長余力のあるアジア諸国との経済・政治的関係を深めていくのは間違いない。しかしイランの脅威に対応しつつ将来的な投資を呼び込むために、アメリカとの密接な関係が必要なのも確かだ。

高齢の国王が1000人以上の随員を従えて長い旅に出て、各国首脳とじっくり話し合ったのだから、アジアの市場と資金、そして技術に寄せるサウジの思いは本物とみていい。

最も重視するのは中国と日本だ。サウジの原油輸出先として両国はトップ5に入る。そして世界最大のエネルギー消費国である中国と天然資源の乏しい日本は、サウジの安定した原油生産に多くを依存している。つまり両国とも、ビジョン2030の実現でサウジの未来が安定することを望んでいる。

サルマン国王と中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、エネルギーや宇宙分野で650億ドル規模の経済協力の覚書に署名。国営石油会社サウジ・アラムコとサウジアラビア基礎産業公社が、シノペック(中国石油化工集団)と共に両国で石油化学の合弁事業を立ち上げることでも合意した。

一方、日本の安倍晋三首相との会談では31件のプロジェクトの可能性や、サウジアラビアにトヨタなどの日本企業を誘致するための経済特区を新設することなどについて協議した。

両国間では現状でも80以上の合弁事業が進行しているが、今回の会談ではさらに、エネルギーや医療など重点的な9分野で協力を深める「日本・サウジ・ビジョン2030」なる構想も打ち出している。

【参考記事】外国人労働者に矛先を向ける「金満国家」サウジアラビアの経済苦境

障害はアメリカの政策

国王はアジアのイスラム圏諸国とも関係強化を図った。核開発をめぐるイランへの経済制裁が解除されて以来、サウジとイランの勢力争いは経済分野にも及んでいる。OPECが減産を強いられるなか、サルマンはインドネシアやマレーシアで130億ドル規模の合弁事業を立ち上げ、石油化学などの分野でこの地域におけるサウジの影響力を確保しようと試みた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国BYDの欧州第3工場、スペ

ビジネス

再送-ロシュとリリーのアルツハイマー病診断用血液検

ワールド

仮想通貨が一時、過去最大の暴落 再来に備えたオプシ

ワールド

アルゼンチン中間選挙、米支援でも投資家に最大のリス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中