最新記事

ビッグデータ

アメリカ式か中国式か? ビッグデータと国家安全保障をめぐる「仁義なき戦い」勃発

THE BATTLE OVER BIG DATA

2022年11月17日(木)15時01分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)
ビッグデータ

デジタル世界は中国式とアメリカ式に二極化(昨年11月の米中オンライン首脳会談) KEVIN FRAYER/GETTY IMAGES

<中国による個人情報収集に対する警戒感が高まるが、そもそも米テック企業も個人情報を利用してきた。過度な規制は国益を損い、中国優勢となるジレンマ>

ビッグデータ時代における米中間の軋轢の激化を示す格好のエピソードがある。新型コロナウイルスが猛威を振るうさなか、中国人の遺伝学者・実業家の汪建(ワン・チエン)が米当局に新型コロナの検査機関を新設したいと申し出たのだ。

汪はアメリカのバイオテック業界ではよく知られた人物だ。アメリカのいくつかの大学で研究者として経験を積んだ後に起業し、現在は深圳に本社を置く世界最大のバイオテック企業BGIの会長を務める。

BGIはヒトゲノム解読の国際プロジェクトにも貢献。アメリカの遺伝学者とも縁が深く、ゲノム編集を使った先駆的研究で知られるハーバード大学のジョージ・チャーチ教授と共同研究を長年行い、彼の名を冠した研究所を中国に設立したほどだ。

ところが、米当局は汪の申し出をはねつけた。汪の計画は、「外国の勢力が新型コロナの検査を通じ、生体情報を収集、蓄積、利用」する事態を警戒する国家防諜安全保障センター(NCSC)の規定に触れたのだ。

トランプ前政権下でNCSCのトップを務めたウィリアム・エバニナに言わせると、BGIの検査機関は「現代版トロイの木馬」にほかならない。中国政府がアメリカ人の「個人データを発掘する」ための「足場」になる、というのだ。

221122p42_CDT_03.jpg

アメリカに新型コロナの検査機関を開設するというBGIの汪建会長(写真)の申し出は、安全保障上の規定に抵触した VISUAL CHINA GROUP/GETTY IMAGES

この一件は、ビッグデータをめぐる米中の緊張の高まりを浮き彫りにした。グーグルやフェイスブック(現メタ)が利用者から収集し、企業のマーケティング用に売る情報など、インターネット上を日々飛び交う膨大なデータ。このビッグデータの保護管理は国家安全保障上の重要課題となっていると、一部の政治家は主張する。

彼らが警戒するのは、中国がアメリカの国家と市民のデータを強力な掃除機で吸い取るように奪うこと。それも企業秘密を盗み、世論を操作するためだけでなく、将来的に技術覇権を握るためにデータを集めることだ。人工知能(AI)の活用が進む今、ビッグデータは戦略的重要性を帯びつつある。

このところ米政界のタカ派寄りの安全保障問題通の間では、中国共産党によるデータの監視を警戒する声が高まっている。中国共産党は国内のデータのやりとりを完全に監視下に置こうとしており、中国に進出した西側企業もその対象になるというのだ。

中国は以前から国家ぐるみの産業スパイ活動を行っているとみられているが、今後その活動が一段とエスカレートする恐れがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権

ワールド

米空港で最大20%減便も、続く政府閉鎖に運輸長官が

ワールド

アングル:マムダニ氏、ニューヨーク市民の心をつかん

ワールド

北朝鮮が「さらなる攻撃的行動」警告、米韓安保協議受
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中