今改めて問う、日本独自の概念である「生きがい」って何?
仕事や子育てから解放されて生まれる余裕をプラスに生かせるか? kumikomini-iStock.
<健康を維持するには運動や食事に気をつけるばかりでなく、心を元気にしてくれる楽しみを持つことも不可欠>
*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2020年11月26日付)からの転載です。
Q1. 人生を"より良く"生きていく上で、「生きがい」は必要だと思います。ただ、改めて考えると生きがいとは何でしょうか?
■"生きがい"の概念は多様
一般に"生きがい"とは、「生きるはりあい」、あるいは「しあわせを感じるもの」、「生きる価値や経験を実現できるもの」と考えられています1。ただ、概念は非常に曖昧で必ずしも定見が定まっているとは言えません。国際的に見ても日本独自の概念と言えます。この言葉が頻繁に使われるようになったのは、日本が経済的な豊かさを達成した20世紀後半からで2、これまで様々な識者から次のような捉え方等が述べられています。
古くは1970年当時、見田(1970)は生きがいを構成する条件として、(1)極度の貧しさからの解放、(2)未来とのかかわりのなかで、現在の生が意味づけられること、(3)人びととのつながりのなかで自分の生が意味づけられること、(4)「つながり」と「未来」の媒体としての仕事をもつことの4つを挙げています3。
藤原(1972)は、(1)未来に開かれたもの、(2)自我の中心に迫るもの、(3)価値に関係する欲求であるもの、(4)使命感を含んでいるものに分類して考察しています4。
柴田(1998)は、高齢者のQOL(Quality of Life)を考える際に重要な概念であると考え、「生きがいとは、従来のQOLに何か他人のためになる、あるいは社会のために役立っているという意識や達成感が加わったものである」として、生きがいの枠組みを試案しています。そして、「生きがい」の英語訳として、going beyond selfあるいはsamaritans、altruismという用語があるとしながらも、「生きがい」という用語は、日本人の文化や価値観にもとづく独自なものとして、外国においても「イキガイ」として使用してもらうのがよい、としています5。
青井(2003)は、生きがいの条件について、客体的条件、主体的条件と分けるなかで、さらに第1次的条件(不幸の解消)、第2次的条件(安定の維持)、第3次的条件(幸福の増進)を区分し整理しています6。
以上に留まらず、生きがいという概念に関する見解は様々あり、時代とともにそれに含まれる要素も変わってきている面があります。なお、広辞苑では生きがいを「生きるはりあい。生きていてよかったと思えるようなこと」と記載されています。
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1 長嶋紀一(日本大学文理学部教授)「高齢者の生きがいとQOLに関する心理学的研究」(『生きがい研究(第8号)』、財団法人長寿社会開発センター、2002年)より
2 袖井孝子(お御茶の水女子大学名誉教授)「老後の設計~画一性から多様性へ」(『生きがい研究(第8号)』、財団法人長寿社会開発センター、2002年)より
3 見田宗介「現代の生きがい」(日経新書、1970年)より
4 藤原喜悦「生きがいの創造」、『現代青年の意識と行動』(大日本図書、1972年)より
5 柴田博「求められている高齢者像」、東京都老人総合研究所編『サクセスフル・エイジング』(ワールドプランニング、1998年)より
6 青井和夫他編『生活構造の理論』(有斐閣、2003年)より