最新記事

フィギュアスケート

「絶対メディア王者」としての羽生結弦

HIS POWER OF WORDS

2022年2月19日(土)10時10分
森田浩之(ジャーナリスト)
羽生結弦

北京五輪で前人未到の4回転半ジャンプ。だが彼の影響力の源は技術や演技だけではない Rob Schumacher-USA TODAY Sports

<北京五輪でも発揮されたが、羽生は「メディアジェニックな力」がとんでもなく高い。数々の名言は「皆さん」とつながるための大切な媒介になっている>

「全部出し切ったっていうのが正直な気持ちです」と、羽生結弦は口を開いた。

「明らかに前の大会よりもいいアクセル跳んでましたし、もうちょっとだったなと思う気持ちももちろんあるんですけど。でも、あれが僕の全てかなって」

これまでの、勝者であり続けた羽生からは聞かれないような言葉だった。北京五輪のフィギュア男子フリーが終わった直後のインタビュー。五輪3連覇を目指した羽生は、4位で競技を終えていた。

「いや、もう一生懸命、頑張りました。正直、これ以上ないくらい頑張ったと思います。報われない努力だったかもしれないですけど。確かに、ショート(プログラム)からうまくいかないこともいっぱいありましたけど。むしろうまくいかなかったことしかないですけど、今回。でも一生懸命、頑張りました」

インタビューはそこで終了。羽生は聞き手のアナウンサーに「ありがとうございました」と礼を言い、次にテレビカメラに目線を合わせて「ありがとうございます」と言った。

いつもながら羽生は、優しく丁寧にメディアに語り掛けていた。敗れた直後の複雑な胸の内を、繊細に言葉を選んで伝えていた。何げない言葉ばかりだが、その一つ一つに込められた思いは実に重く、大きかった。

英語に「メディアジェニック」という言葉がある。「メディア映えする」といった意味だが、羽生はこのメディアジェニックな力がとんでもなく高い。

演技を終えた後の表情や視線、観客への会釈などはもちろん、採点発表を待つ「キス・アンド・クライ」のエリアでの振る舞いや、テレビカメラを前にしての話し方など、羽生のあらゆる所作には世界中の多くの人を引き付けるものがある。

その「メディア力」は、北京でも存分に発揮された。今回はこれまでのような「絶対王者」としての振る舞いではなかったが、だからこそ羽生が「絶対メディア王者」であることを改めて印象付けることになった。

感動を与えるだけではなく

北京五輪の直前にも、羽生は印象的な言葉をいくつも残している。

彼にとって今大会の課題は2つ。1つは五輪3連覇、もう1つは前人未到のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)への挑戦だった。

「(クワッドアクセルは)皆さんが僕に懸けてくれている夢だから。自分のためにというのもあるけど、皆さんのためにかなえてあげたい」

「できるって言ってくださる方がいらっしゃるなら、やっぱり僕は諦めずにやらないと、それは皆さんへの裏切りになってしまうと思えたので。北京五輪までに覚悟を持ってやらないといけないなって思いました」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:日米為替声明、「高市トレード」で思惑 円

ワールド

タイ次期財務相、通貨高抑制で中銀と協力 資本の動き

ビジネス

三菱自、30年度に日本販売1.5倍増へ 国内市場の

ワールド

石油需要、アジアで伸び続く=ロシア石油大手トップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中