コラム

人気と権力が最高潮に達したプーチンがなぞるロシア皇帝の道

2022年05月23日(月)11時40分

ロシアは大国であり続けるという誓いをプーチンは断固とした行動で示す MIKHAIL KLIMENTYEV-SPUTNIK-KREMLIN-REUTERS

<失敗続きのエリツィンでも旧ソ連の指導者でもないプーチンが目指す強いリーダー像の原点とは>

私が大学の特別講義で初めてモスクワを訪れたのは2011年12月10日。6万人のモスクワ市民がボロトナヤ広場に押し寄せる大規模な抗議デモがあった日だった。

一連の講義日程を終えたのはクリスマスイブだった。私を乗せた午前9時発の航空便がロシア領空を離れた直後、ウラジーミル・プーチンにとって政界で最初の上司だった元サンクトペテルブルク市長の娘も加わった10万人のデモ隊がサハロフ通りに殺到。当時、首相のプーチンの支持率は低迷していた。

それから10年以上。ウクライナでの戦争は緒戦で大きくつまずいたが、それでもプーチンの権力と人気は最高潮に達している。なぜか。

この驚異的な持続性について、私は何年もかけて友人や同僚、学生など数百人と話し合った。その結果、プーチン人気の全体像──その土台にある4本の中心的な柱が見えてきた。重要なものから順に見ていこう。

ロシアの不安と傷ついた誇り

第1に、強い指導者というロシアの「伝統」に対する国民の期待。これが安定した権力基盤を持つ独裁者に圧倒的なカリスマ性を与えている。

現在は下院議長を務める、プーチンの最側近の1人はかつてこう言った。「もしプーチンがいなければ、ロシアもない」

一般的に、選挙を通じた平和的権力移行を2度経ることが完全な民主主義の条件とされている。だが、ロシアがこの条件を満たしたことは歴史上一度もない。そのため草の根型の人気政治家を渇望する国民の想像力の中には、比較可能な過去の前例が存在しない。

ソ連崩壊後の1990年代は、極端に不安定で深刻な金融不安に悩まされた時期だった。そんな危機のさなかに登場したプーチンは、ほとんど1人で経済と国民生活の安定を取り戻した人物と見なされている。

民主的に選ばれたロシア初の大統領ボリス・エリツィンは、民主主義の萌芽期の混乱と混沌を体現する人物だった。不節制と規律の欠如から心臓発作を起こし、酒に溺れる姿はこの時代を象徴している。

1999年、エリツィンはロシア国民の大量虐殺、殺人教唆など5件の罪状で弾劾訴追を受けた。エリツィンは8年間で7人の首相をすげ替えたが、プーチンは20年以上でわずか4人だ。

エリツィンが大統領に就任した1992年に小売価格は2500%上昇。翌年も840%値上がりし、1995年まで3桁のインフレが続いた。その結果、国民の貯金は紙くずと化した。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

香港GDP、第2四半期は前年比+3.1% 予想上回

ビジネス

台湾第2四半期GDP、前年比7.96%増 4年ぶり

ビジネス

物価見通し引き上げの主因は食品、政策後手に回ってい

ワールド

アングル:発達障害の人々に広がるAI利用、「他者と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story