コラム

育児休業で住宅ローン審査が不利になるのは深刻な問題

2021年03月16日(火)14時00分

子育て中の家庭にとって住環境の整備は重要な問題 Ivan-balvan/iStock.

<理解を示す銀行もあるようだが、少子化対策が急務である社会に逆行する動きとしか言いようがない>

銀行で住宅ローンを申し込む際に、育児休業を取得中か取得予定の場合、審査で不利になると言われています。以前からこの問題は一部で指摘されていましたが、現在でもそのような事例が多く発生していることもあり、多くのメディアでも取り上げられるようになってきました。

報道によれば、様々な状況があるようです。夫婦それぞれの与信枠を合計した融資の場合に休業する方の枠を減らされたとか、女性の場合は復帰の可能性にリスクがあると断られたとか、一方で男性の場合には「前例がないので難しい」と言われたり、それぞれの状況は単純ではありません。

これは深刻な問題です。というのは、何よりも子育て中の家庭にとって、住環境の整備というのは大切な問題だからです。利便性だけでなく、治安や教育環境などを熟慮の末に持ち家を選択したわけで、その前提となるローンが組めないとなると生活設計は振り出しに戻ってしまいます。

それ以前の問題として、家探しというのは大変な苦労を伴います。膨大な情報を集めて検討し、多くの候補に足を運んでようやく物件が決定したとします。その最後の段階で、ローン審査で問題が出るというのでは、当事者にとってのショックは大変であると思います。

幸いなことに、全ての金融機関が横並びで拒否しているのではなく、銀行によっては理解を示してくれる場合もあるというのです。それにしても少子化対策が急務である社会に逆行する動きとしか言いようがありません。

金融機関も追い詰められている

ですが、個々の金融機関としては追い詰められての判断という面もあるのだと思います。何といっても日本は恐ろしいほどの低金利社会です。超長期はともかく、中期まででは0.5%以下という水準で推移しています。ということは、貸す側としては万が一債務不履行が出た場合に、その分を償却する原資が限られます。

また、都市部の一部の市場を別にすると、日本はまだまだ中古住宅の価値が安定していません。ですから、物件の担保能力は時間とともに減っていくわけで、与信に当たっては余計に事故の可能性を厳しく審査することになります。かといって、勤務先の「育休への理解度」を判定して貸す貸さないを判断するのも難しい、そんな中で銀行が悪者になってしまうわけです。

こうした問題を防止するには、法律などの強制力を発動するしかありません。まず社会全体における育休という制度への理解と定着を進めることも大事ですが、それを待っている訳には行かないので、制度として規制をかけるしかないと思います。それが金融機関の体力を奪うものであって、全員が不幸になる危険があるのであれば、ローン保険の整備をしてその保険料の一部は国が負担するなど、何らかの工夫が必要と思います。それこそ待ったなしの問題です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米政権「トランプ氏の交渉術の勝利」、カナダのデジタ

ワールド

EU、米関税一律10%受け入れの用意 主要品目の引

ビジネス

ECB総裁「世界の不確実性高まる」、物価安定に強力

ワールド

トランプ氏、7月7日にネタニヤフ首相と会談 ホワイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story