コラム

『天気の子』、米アカデミー賞でのハードルは何か?

2019年09月05日(木)19時20分

『天気の子』のメッセージがアメリカの若者の共感を呼ぶ可能性は十分にある 東宝MOVIEチャンネル/YOUTUBE

<外国語映画賞の「日本代表」に選ばれた本作では、新海誠監督が気候変動をユニークな位置付けで描いているが......>

新海誠監督の最新作『天気の子』を見る機会がありました。前作、『君の名は』の成功を受けての新作ということでは、期待を裏切らない作品と思いました。特に、雨や雲の描写、衰退や退廃を抱えた東京という街の描写については、アニメというジャンルにおける映像表現をさらに高いレベルへと持ち上げていたと思います。

特に映画の舞台として、東京という街への愛憎の交錯する視線が絵として表現されていたこと、これは前作の『君の名は』からさらに繊細な作り込みができていたように思います。都市の活動の象徴として鉄道という道具が使われているのも同じですが、鉄道施設内における危険行動など踏み込んだ描き方もされていて、JR東日本は多分許諾していると思いますが、あくまでファンタジーである以上、それも良かったと思います。

内容については、特にこの作品の場合は「ネタバレ」は厳禁だと思いますので、一切お話しできませんが、少年少女の恋愛と同時に、気象現象というのが大きな要素になっているということはお話ししてもいいでしょう。そして、その2つの要素が見事に映像化されています。

ところで、この『天気の子』は、来年3月に発表される次回の米アカデミー賞における国際長編映画賞部門(これまでは外国語映画賞と言われていたものです)の出品作品、つまり「日本代表」に決定しています。日本映画製作者連盟が、選考のプロセスを経て発表したものです。

従来の外国語映画賞は、基本的に実写のドラマが対象だったのを、次回からはアニメも含めて「1国1作品」の代表を集めた上で、絞り込んでいくことになっていますが、その日本を代表する1作品になったわけです。今後は、恐らく10本の「決勝進出」作品に選ばれることが必要で、その上で最優秀になるかどうかは来年3月の表彰式で発表されるという流れになります。

そもそも日本のアニメーションについては、アメリカの若者にも圧倒的な支持があります。また、新海誠監督の知名度や人気も急速に上昇中ですから、この『天気の子』は相当に有力だと思います。

ただ、ベスト10に選ばれ、そして本選で最優秀の栄冠を獲得するには一つの大きなハードルがあるのも事実だと思います。

それは、気候変動と温暖化の問題です。本作の重要なテーマは気候変動ですが、新海監督の描き方は、大変にユニークです。ある種の宗教性、精神性、社会批判などの比喩(暗喩、メタファー)として気候変動というものを位置づけているのです。そして、作品を見ればアメリカの若者にも、そのメッセージは十分に伝わると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米移民当局、レビット報道官の親戚女性を拘束 不法滞

ワールド

IMF、ウクライナ向け支援巡り実務者レベルで合意 

ワールド

ウクライナ和平交渉担当高官を事情聴取、大規模汚職事

ビジネス

米ホワイトハウス付近で銃撃、州兵2人重体 トランプ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story