コラム

朝鮮半島の混乱に備えて「5カ国協議」体制を

2017年09月05日(火)16時30分

北朝鮮の核実験に対抗した実施された韓国軍の弾道ミサイルの発射訓練 REUTERS

<仮に北朝鮮の現体制が崩壊した場合に備えて、アメリカ、日本、韓国、中国、ロシアの「5カ国」が協議する体制が必要ではないか>

今年3月にこのコラム欄で、朝鮮半島情勢が緊迫するなかでは、中長期的に日本が警戒しなければならないのは、統一後の朝鮮半島に日本を「仮想敵国」とみなす国家が成立することだ、という議論をしました。

残念ながら、今日即座に韓国が北朝鮮を「吸収合併」した場合には、1990年のドイツの事例のように、通貨の等価交換、社会保険の未払い分負担といった「南北住民を平等に処遇する」施策を成功させる経済力は韓国にはありません。ですから、社会の混乱を避けるためには「反日」カードが切られる危険性を想定しなくてならないという主旨です。

対策として3月の時点では、北朝鮮という国を何とか「緩衝国家として残す」こと、不必要なアメリカ側から北朝鮮への挑発を止めさせることなどを提案したのですが、その後、情勢は大きく変化しています。

仮に北朝鮮の政権が崩壊した場合に備えて、関係諸国は混乱回避のための実務的な協議を始める必要があると思います。

【参考記事】日本の核武装は、なぜ非現実的なのか

まず、ドイツ統一の際には、ホーネッカー体制の末期になると、東ドイツ国民によるハンガリーやチェコを経由した西ドイツへの大量亡命が止められなくなり、さらにはクレンツ政権が成立するとまさに「なし崩し」的にベルリンの壁が崩壊しました。混乱が始まってから「壁の崩壊」までは半年以下、そして壁が崩れてから国家再統一までは1年という猛スピードでした。

朝鮮半島の38度線の場合は、そのような「速すぎる動き」は混乱を招きます。ですから、できるだけスムーズかつ冷静にスローダウンした変化にとどめなければならないでしょう。例えば38度線を簡単には開けないでおいて、仮に北の一部地域の治安が悪化したとしても、難民は国内にとどめて国連や多国籍軍が保護する体制も必要でしょう。

なかには人民解放軍が38度線の北側に治安維持のために展開し、アメリカがその動きを承認するというシナリオもあります。例えば2000年代には、このシナリオを当時のブッシュ政権が真剣に検討しているという報道もありました。真偽の程は分かりません。

ですが、2017年の今日には、このシナリオは非現実的となりました。この間に、韓国の経済は相対的には弱体化した一方で、中国の経済と中国経済圏の生活水準は向上したからです。ですから、中国が北朝鮮を緩衝国家として間接的に支援しつつ治安維持をするのは物理的には可能なのですが、下手をすると、北朝鮮の改革開放をやった勢いで南も中国の経済的、そして政治的な影響下に入ってしまう危険があるからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story