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【写真特集】原発事故15年後の福島が抱える「心の霧」
THE LINGERING PAIN OF FUKUSHIMA
Photographs by Yuki Iwanami
北泉海水浴場(南相馬市、20年)。沿岸に吹き付ける冷たく湿った風「やませ」がもたらす霧の合間に、東北電力原町火力発電所がかすかに浮かぶ
<東日本大震災に伴う巨大津波で、全電源を喪失した福島第一原子力発電所は制御機能を失い大量の放射性物質が放出される大事故を起こした。未曾有の大惨事から15年目の真実>
2011年3月、東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生した。放射性物質が降り注いだ場所に立った私は、平時と変わらぬ光景を前に、命を脅かす存在を視認できないことに戦慄した。以来15年、原発事故の目に見えない被害の可視化を写真で試みてきた。
事故から3年後、福島へ移住し、生活者として常に不安と葛藤を抱えるうちに、人々の内なる被災に気付いた。避難指示区域の設定は土地と人を分断し、人と人の間にも立場や待遇の差による分断を生じさせていた。日々に疲弊し、生きていくために心にふたをせざるを得ない現実があった。
除染土が入ったバッグのような目に見える事故の痕跡が時とともに薄れる一方、人々は現在や未来が見通せない「心の霧」を抱える。11年9月時点の避難指示区域は約8割が解除されたが、帰還困難区域が7市町村に約300平方㌔ほど残る。当初全町避難となった大熊町の居住人口は、現在事故前の1割強。その大半は移住者で、元の姿の町を取り戻すのはもはや不可能だ。
映画のセットを思わせる真新しい街並みと、植物にのみ込まれた廃屋が隣り合い、刷新と原状復旧が復興施策として対立する。故郷への帰還と放射線への恐怖は本来は別次元の課題だが、ここでは人々の心の中で対立する。さまざまな事象がそれぞれに矛盾をはらみ、絡まり合っている。しかし単純化されたショート動画のような情報があふれ、複雑な事象をひもとくことが忌避されるうちに、真実は霧の向こうに押しやられていく。
復興の名の下で進む物事の「正解」は誰にも分からない。それでもここに大地が存在し、人々が生き続けている。そうした事実の積み重ねを、15年目の福島の真実に最も近いものとして、ここに提示したい。
岩波友紀(写真家)
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Photographs by Yuki Iwanami
撮影:岩波友紀
1977年長野県生まれ。新聞社の写真部勤務を経てフリーの写真家となる。東日本大震災と福島第一原発事故を題材に、人間の生きる理由、土地やモノに刻まれた記憶などをテーマに作品を発表している。近著に米ユージン・スミス財団の助成を受け制作した『Blue Persimmons』(2024年、赤々舎)
【連載第1020回】Newsweek日本版 写真で世界を伝える「Picture Power」2026年3月17日号掲載
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